第117話 キモいです
「そう。すべての過ちは、あの悪魔から始まったのだ!」
マルメイヤー公爵は大声で叫んだかと思うと、ご自分の左手の甲を短剣で刺していました。
まだ隠し持っていたのですか!
それもすごく禍々しい気配を放っています。
そしてマルメイヤー公爵が縮んでいるような気がします。いったい何が起こっているのでしょう?
困惑をしている私の横に一陣の風が吹き抜けて行きました。続いて響く甲高い音。
「ああ……もう手遅れだったみたいだね」
剣を抜いて床に向って振り下ろしているのは、父でした。
何が手遅れなのですか!
しかし、私の目の前にいたマルメイヤー公爵の姿はどこにもなく、父の剣は何も切ってはいませんでした。
「手遅れではなく成功と言い給え。悪魔の犬」
声がする方を見れば、今日は招待していない方の姿がありました。
第二王子のアルフレッド様です。
どうしてここに? それも何故かそこからマルメイヤー公爵の声が聞こえた気がします。
「私こそが正統なる王位継承者である。皆のもの頭が高い」
あの……十三歳の少年が言っている姿には、虚勢を張っているんだろうなという感じなのですが、如何せん……
「第二王子の姿でしわがれた声って、キモ!」
私の心の声を、遠くの方にいる母が代弁してくれました。
はい、なんというか。少年の姿なのに老成した感じがチグハグというか、違和感の塊というか……ってこれは、怪しい術を使って、マルメイヤー公爵がただ単に若返ったわけではないということです。
「ほら、私は手は出さないから、きちんと対処しなさいよ」
母は律儀に、王家のことには手を出さないとうことを守るようです。いいえ、これは絶対に嫌がらせですわね。
そっちが手を出すなと言ったのだから、最後まで始末しろということでしょう。
「悪魔! どこにいる! 悪魔の存在など、今の私にとって露ほどにもない」
さて、これは予想外ですよ。ランドルフ王子。どうするのですか? それに相手は私の虚偽の術を完璧に破っていますわ。
そもそもアレはなんなのでしょう?
あの地下に残された書物のことを実行したのでしたら、そうとうヤバいですわよ。
「丁度よかった。アルフレッド。君にも祝ってほしかったのだよ。私の婚約を」
ランドルフ王子! どうして普通に話しているのですか! どう見ても外見は若いけど中身はジジイですわよ。




