第116話 すごく嫌われていますわ
会場内のざわめきが大きくなります。
やはり、マルメイヤー公爵を甘く見てはなりません。逆にこちらが、してやられてしまいますよ。
「聖女様の力をこの世で振るうことは、幸福ももたらせれば、破滅をもたらすこともあるだろう。流石邪神を倒した聖女マリー様の御息女といえる」
大きすぎる力は諸刃の剣です。それは力を使うものの良識の問題になってきます。
「では公平性を保つために、もう一人の人物に立ち会ってもらおう。枢機卿であるアルベント猊下だ」
そこに筋肉ムキムキのお祖父様が枢機卿の正装の姿をして人垣から出てきました。
……リカルド様がお願いしていたことはこれですか。
あのすごく身内なのですけど。公平性もなにもあったものではありません。
「これのどこが公平なのだね」
そうですよね。マルメイヤー公爵様から突っ込まれますよね。
ランドルフ王子。これは人選ミスです。
「ふむ。我々は神に仕える下僕。マルメイヤー公爵。そなたの味方ではないが、ランドルフ殿下の味方でもない。神はどのような者にも平等である」
これは枢機卿としての言葉でしょう。この場に私情は持ち込まないと。
「さて、マルメイヤー卿。わしも知りたいものだ。王族と血縁関係があると思える女性と貴公との関係はいかなるものか」
祖父はずばっと聞いてきました。
カトリーヌ様とマルメイヤー公爵との関係性をです。
ここで父と娘だと答えれば、第二側妃と呼ばれる者は誰なのかという疑問を人々に抱かせ、それこそ国の転覆を目論む逆賊という罪を充てがうことができるのです。
「貴様らに答える義理はない」
そう言ってマルメイヤー公爵は懐から短剣を出してきました。これはいけない!
私は慌てて、床を蹴ります。
そして階段状になった壇上から跳躍して、マルメイヤー公爵の前に降り立ちました。
「公爵。それは駄目です」
手を振り上げ、短剣を持った右腕に手刀を落としました。
「この悪魔の娘が!」
私を威圧するように睨みつけるマルメイヤー公爵。
が、その後瞬時に表情が変わり、地面に身を屈めてうめき声を上げ始めました。
「私は悪魔の娘ではありませんわ」
苦しみもがくマルメイヤー公爵に向って訂正をします。
「あの、肯定をされた方が苦しみが短くてすみますわ」
そうだと言っていただければ、その苦しみから解放されるのですが、マルメイヤー公爵は頑として私の言葉に答えませんでした。
「私は……あの悪魔のすべてを……否定する」
母よ。すごく嫌われていますが、いったい何をして、ここまで嫌われたのでしょうか?




