第113話 鳥肌もの
「ううぅ。テンションが下がる。背後からリカルドが睨んできている」
「バカ王子。私は背後に控えているだけですので、さっさと出ていって挨拶をしてください」
いらない情報を私に教えているぐらいなら、アリアお嬢様の側にいて、お話をしていればよかったではありませんか。
私はランドルフ王子の背中を押しました。
さっさと行けと。
「はぁ……さて、行こうか」
大きく息を吐いたかと思うと、切り替えて王子の表情をして前を向きます。そして、大きな扉が開き、会場の光が入ってきました。
盛大な拍手が会場内を満たしていきます。そのまばゆい光の洪水と拍手の嵐が満たされた会場内に入っていく王子。
はははは……実は私の方が膝が笑っています。
こんな広い会場で貴族の人々から注目を浴びているところに立つことは、普通はないですわよね。
「イーリア。私とアドラディオーネ公爵令嬢が後から行きますから、先に行って待っていてください」
「うっ」
「そうよ。イーリアが行かないと始まらないわ」
そして、私はリカルド様とアリアお嬢様に背中を押されて会場に入って行ったのでした。
「今宵は私のためによく来てくれた……」
ランドルフ王子がパーティーの開催の挨拶をしていますが、私は王子の背後で吐きそうです。
朝からほとんど食べ物を口にすることはありませんでしたが、緊張のあまり吐き気が酷いです。
普通の伯爵令嬢がこのような場で通目を浴びることなど、起こり得ないでしょう。
人。人。人。人。人。
それもほとんどが爵位持ちの方々なのです。
笑みを浮かべているものの、引きつっていないでしょうか?
「気になっている者もいるだろうから、先に紹介をしておこう。イーリア・アルベント伯爵令嬢だ」
はっ! ランドルフ王子から紹介されたので、人の視線が突き刺さるように注目されています。
その視線を避けるように、ドレスを軽く持ち上げ、膝を曲て腰から頭を下げました。
「知っている者もいるだろうが、聖女マリー様の御息女だ。私の大切な人だ」
うわっ! ランドルフ王子の笑顔つきでそんなことを言われました。そのため、全身に悪寒が襲ってきたように、鳥肌が立ってしまったではないですか。
会場もどよめきが沸き立って、拍手がおくられています。この鳥肌が収まらなかったらどうしてくれるのですか!




