第111話 肝に銘じておきます
「それよりも、どうしてこうも殺風景なの?」
それは会場の飾り付けのことでしょう。
普通であれば、生花で彩ったり、怪しい壺やよくわからない絵画を壁際に置いたり、一番奥には王家の家紋が描かれたタペストリーを壁にかけたりするそうなのです。
しかし、今回は飾り付けはなく、会場を彩っているのは、天上から吊り下げられた大きなシャンデリアと、天井に描かれた天地創造の絵ぐらいです。
「王家ならもっとゴテゴテしていると思っていたわ」
母の言葉の中に、王家に対する偏見が混じっているような気がします。
「王妃様のご意向が示されましたので、このようになっております」
「あのエリザベートの? 本当に猫妃といい、諦めが悪いのね」
私は母の言いたいことがわからず、首を傾げてしまいます。
なぜ、ここでリカルド様の母親である第二側妃様の名が出てくるのでしょうか?
そして、王妃であるエリザベート様を呼び捨て!
「聖女マリー様は、誰の味方でもないのでしょう?」
「あら? よくわかっているじゃない? 味方ではないわね。でも私はイーリアの母親よ。おいたが過ぎると全てを叩き潰すわ」
「肝に銘じておきます」
そう言ってリカルド様は、母に向かって頭を下げました。
その姿を見た母は、用が済んだと言わんばかりに背を向けて準備が整った会場を出ていったのです。
「お話に聞くように、聖女マリー様は恐ろしい御方ですね」
「え? そうですか? 謎の行動は多いと思いますけど」
ええ、使用人の方々に『イエス! マム!』と言わせているのが、どういう意味があるのか、私にはさっぱりわからないのです。
「わざわざ釘を差しにこられたようですね。我々の動きに感づかれておられる。恐ろしい方です」
「え? もしかして私が聞いている以外の何かをしようとしています?」
今回はマルメイヤー公爵を、表舞台から引きずり下ろそうという大掛かりなことをしようとしているのです。
失敗すれば、こちらが消されると忠告されるぐらいのことをです。
「いいえ。今回はイーリアに説明したとおりです」
今回は? ということは次回が、あるということですか?
「ランドルフ殿下には、王になっていただかないといけませんからね」
はい。偽物の第二側妃に、王族の血が入っていない第二王子。彼らを王城から排除する。
ランドルフ王子が王として立つには絶対に必要不可欠なことです。
そして元凶であるマルメイヤー公爵の権力を失墜させる。
そうしなければ、この国はいずれマルメイヤー公爵を王と呼ぶことになるでしょう。




