第109話 いつの間に儀式が発生しているのですか
「イーリアからも何かもらえないか?」
「え?」
「何でもいい。誓いの証になるような物だ」
いきなり言われても用意などしていません。それにその誓いの意味がよくわからなかったのですけど?
「えっと……その……」
「早くしないと陣が消えますよ」
「陣!」
足元を見るといつの間にか光る円状の魔法陣が形成されていました。これやばくないですか!
そんな仰々しい儀式がいつの間に始まっていたのですか!
「リカルド様これは……」
「ただの私自身への誓約です。破ると私が何かしらの対価を払わないといけなくなるだけです」
凄くヤバい魔法陣でした。何を勝手に誓約をしているのですか!
それに珍しいヒヒイロカネの短剣と同等の物なんて……あ……。
私は空間に手を入れて、あるものを取り出しました。
「天上の華と呼ばれるものです。一度だけ身代わりになってくれると言われていますが、母は硬化質があるただの花だと言っていました」
花というには薄いピンク色の蕾の花を差し出します。葉もなく茎から水滴の形をした蕾が乗っているような花です。
ただ触れると柔らかいのですが、指で弾くと金属のように硬くなるという変わった性質の花です。
するとリカルド様は驚いたように目を見開きました。え? この花のことを知っていたとかですか?
そしてクスクスと笑い出しました。
「これはまるでドラギニアの王と精霊姫の物語のようですね」
あの……私は、そのような物語は知らないのですが? レイム族に伝わる昔話か何かですか?
リカルド様はいつもとは違う、ふわりとした笑みを浮かべて私が差し出した『天上の華』を受け取りました。
……はっ! 一瞬、思考が飛んだような……何故か父に剣の稽古をつけられているときのように、心臓がバクバクしています。
デジャヴュ。
「契約は成立した。我らドラギニアの繁栄は未来永劫に続くことになる」
そして足元の陣は消えていきました。
私は深呼吸を繰り返して、心臓を落ち着かせます。なんだか暑いですわ。
「ということで、今日の婚約発表も問題ないですよね?」
「どの辺りがですか?」
そして何故か私はリカルド様に抱きかかえられています。
「おや? 誓いの儀式をしたではないですか? それも互いの物を交換しましたよね? これは夫婦と言っていいということです」
「あ……あの……何か違うと思うのです」
「可愛いイーリアを私の婚約者として皆に紹介する機会ではないですか。私のイーリアに手を出すなと」
何故、最後だけ一段と声が低くなるのですか。
「お兄様。嬉しそうで良かった」




