第108話 好きだ
「そういう話ではなくてですね……何と言いますか。帝国の第二皇子のリカルド様の婚約者が本当に私でいいのかと」
何度考えても身分違いだと思うのです。私は所詮伯爵令嬢で、帝国の第二皇子に嫁ぐような立場ではないのです。
正確にはランドルフ皇子に仕える立場のリカルド様にですが。
「何度も言っていますが、私の方がイーリアにふさわしくないと言われる立場なのですよ?」
「それは、ほぼ母の力です」
「それを言うのであれば、私は皇帝の第二子として生を受けただけです。私自身は何も成していません」
……そう言われればそうなのですが……私は母ほど何でもできません。ただ、変わった母の独自の魔法を使えるぐらいです。
「ですから、国とか立場とか関係なくシリウス・リカルド・ドラギニアとして、言わせてください」
ドラギニアの名を名乗るのですか?
どうもその名に意味があるようなのですが、私が調べられる範囲でも調べてもシュトラール帝国の第二側妃の名としか出てきませんでした。
母と父は知っているようなのですが……。
「俺はイーリアが好きだ」
いきなりド直球できました。それもいつもとは違うタメ口で……。
「だから、イーリアには俺の側にいて欲しいと思っている」
そしてリカルド様は私の前に跪きました。あの……なんだか、この場から逃げだしたい気分なのですが……紫紺の瞳が私を逃さないと言わんばかりに光っているように見えてしまうのは気の所為でしょうか?
徐々に足を引いていると、腕を取られてしまいました。
「我らがドラギニアの王に誓おう。アフェルアギニエヴェルシア。ベルアガルドグレンラバル」
どこの言葉ですか! そもそもドラギニアの王とは何ですか! レイム族の王という意味ではないのですか?
「ドラギニアの悲願の達成を、イーリアに捧げることを」
以前も聞いたドラギニアの悲願ってなんですか! それを私に捧げられても困ります!
「その誓いの証として、イーリアに守り刀を贈る。受け取ってもらえるかな?」
そう言ってリカルド様は私に青みを帯びた短剣を差し出してきました。
はっ! ヒヒイロカネで作られたという剣と同じ短剣! それも凄く振り回しやすそう!
「はい!」
あ……思わず受け取ってしまいました。
そのドラギニアの悲願とは何か聞いておかないと、私にどうこうしてほしいと言われても困りますから。
「あの……」
うぇ? 何かすっごく見られているのですが、何ですか?




