第107話 いったいどれほどのドレスを作ったのですか?
ルシア様を説得したものの、ランドルフ王子の離宮を動かしているのは実質、仕えている高齢の夫人方です。
そんな方々に私が敵うわけもなく、連行され、湯浴みをさせられ、身体を磨かれ、ドレスを着付けられ、化粧をされてしまいました。
「もう、私はこれだけで疲れました」
昔はお腹をギュウギュウに締めるドレスが主流だったのですが、今は母が考案したという、ドレスが流行っています。
その中での私が着ているのは『エーライン』というものです。
どういうドレスか母に聞いたことがあったのですが、『Aという文字を模したドレスよ』と意味不明なことを言われた覚えがあります。
「イーたん。可愛い。るーたんはメイド服で参戦する」
私の目の前には時間を持て余してぬいぐるみを抱きかかえたメイド服姿のルシア様がいます。
そうです。ルシア様もドレスを着ればいいのです。
「ルシア様もドレスを着てランドルフ王子の背後に控えましょう」
「るーたんは顔がバレているから裏方」
「その指輪の魔道具は、なんなのですか?」
「お兄様にイーたんが準備できたと言ってくる」
ルシア様が逃げてしまいました。私も使用人の服がよかったです。
鏡の前に立っている私を見ます。十六歳には見えない幼い姿。黒髪に血のような赤い瞳。そんな私が鮮やかな青い色のドレスをまとっているのです。
「浮きすぎじゃない?」
母が、このようなことを何か言っていましたわね。馬子にも衣装とはこのことでしょう。
帝国の皇子の婚約者など、私がなんてありえないでしょう。
「どこかおかしいところでもあるのですか?」
突然私が見ている鏡に、銀髪の青年が映り込んできました。それもリカルド様は帝国風の黒い軍服の衣装を身に着けています。
絶対に、これって見劣りしていますわよね。
「私、やはり使用人の服装でいいと思うのです」
「気に入らないのであれば、別のドレスにしますか? 最近はマーメイドラインが人気だと聞きましたので、作らせていますよ。エンパイアラインもありますよ」
……マーメイドラインだなんて、私の体格で似合うはずないでしょう。
それにいくつドレスを作ったのですか?
「イーリアにはエーラインが似合うと思ったのですが、そうですね。イーリアに選んでもらうほうがよかったですね」
「エーラインでいいです」
「で?」
「エーラインがいいです」
「そうですか。では何が気に入らないのでしょうか?」
何が気に入らないとかではなくて……
「リカルド様の婚約者が、本当に私でいいのかと……」
「これは、私のイーリアへの愛が疑われているということですか?」
どこからそんな話になったのですか!
それからリカルド様の紫紺の目が、光っているように見えるのですが気の所為でしょうか?




