第105話 身体は大人。心は乙女。
あっという間に月日が経ち、ランドルフ王子とアリアお嬢様の婚約発表の日になりました。
結局私は、お嬢様のお手伝いを何一つできないまま、王子の離宮に居続けていたのです。
その一番の理由は……
「はっ! ふっ! えい! やー!」
拙いながらも剣の基礎の型を繰り返しているのは、保護したオルビス君です。別のところにいるよりも、母の魔導生物により侵入者対策ができたランドルフ王子の離宮が一番安全ということで、ここで暮らすようになったのです。
「今日はここまでにしよう」
ガリガリだったオルビス君は、食事と適度な運動のお陰で、普通の十三歳の少年にみえるようになるまで回復しました。
「はい! ランドルフ殿下!」
婚約発表パーティーが今日行われるというのに、ランドルフ王子はオルビス君の剣の訓練に付き合っていました。
なんでしょうか?弟子でもできた気分なのでしょうか?
「サフィーロ伯爵から聞いたのですが、今日のパーティーに僕も出ていいって本当のことですか?」
「いいぞ。カトリーヌと出てくれたらいい」
「か……カトリーヌ様と……そそんな……ぼぼ僕がなんて、ご一緒にだなんて……」
いきなり顔を赤らめて、もじもじしだしたオルビス君。
「剣の稽古は終わりましたか? それなら、一緒にお茶でもしませんか? オルビス」
そこに金髪の美しい女性がやってきました。第二側妃のカトリーヌ様です。
はい、カトリーヌ様もこちらにいたほうが安全だろうと言うことで、一緒に離宮で暮らすことになったのです。
母特性の青い泡を吹きだす薬のお陰で、身体も精神も元気になられ、今では何かに怯えることもなく、普通に暮らせるようになられました。
嫌な記憶は、あの青い泡と共に排出されたのでしょう。
ただ、カトリーヌ様の記憶が十歳ぐらいまで遡ってしまったようで、今ではオルビス君と仲良くしようと一緒にいることが多いです。
まぁ、貴族としては二十五歳と十三歳という年齢差はありえますから、問題はないのですが……一応肩書は第二側妃ですからね。
「カトリーヌ。今日はゆっくりしている暇はないから、程々にな」
「ランドルフ。貴方、わたくしに偉そうに命じないでくださいませ!」
そしてランドルフ王子は、王族と認識されていないようです。そうですわよね。真面目にしていればいいのですが、馬鹿なことを言っている方が多いです。
「ははは、居候が何を言っているんだ? 使用人が少ないんだから、離宮の掃除をしろと言っているんだ」
「わたくしはマルメイヤー公爵令嬢なのよ!」
「それは父親が、公爵だから意味があることだとわかって……」
「馬鹿王子! 黙りなさい!」
馬鹿王子がいらないことを言いだしたので、私は物理的に黙らせました。
「ぐふっ……いいパンチだ」
そして何故か、私の拳を褒めながら倒れていく馬鹿王子。こうして婚約発表の日が始まったのでした。




