第100話 イーリア対ルシア
「あの……やっぱりお店を出ます」
私は困らせるために、店に入ったわけではありません。
立ち上がろうとすれば、リカルド様に腰を抱えられて立つことができませんでした。
あの……ちょっと近すぎです。
「客が求めるものを出せない商会であれば、無くなっても問題ありませんよね」
そのようなことは絶対に無いと思うのです。ほら、物珍しい商品が常時置いてあるとは言えませんもの。
そして、再び戻ってきたオーナーに、私は店の裏に連れて行かれました。
そこは何も無い裏庭のような広場で、武器の試し切りができる場所になっていました。
ここまではいいのです。
そこに並べられている武器の数々。
あの? どこの巨人が持つのですかという巨大斧。
腕の力では絶対に扱えないだろうという大弩。
そして、私の身長よりも大きな大剣。
私って巨人族と思われているのですか?
「おぉ! るーたんは暗器しか持たないから、こんな大きな武器は新鮮!」
そう言ってルシア様は、普通では扱えない武器の周りをぐるぐる回っています。
あの……その武器は実用性は皆無ですわよ。
どこの戦場に行くのですかと言わんばかりの厳つさではないですか。
ルシア様は一通り観察して、ルシア様より大きな大剣を手にしました。モニュメントのように台に支えられ飾られているので、持ち手は身長よりはるか高いのです。しかし、ジャンプをして剣の柄に手をかけたかと思うと、全身を使って剣を持ち上げて構えました。
流石、皇女様でもレイム族だと言えばいいのでしょうか。
その大剣を振り回すルシア様。やはり使い慣れていないものなのか、剣の重さに引きずられています。
「難しい。でも慣れればいけそうな気がする」
「ルシアが楽しんでどうするのです?」
「はっ! お兄様。ごめんなさい」
ルシア様に注意をするリカルド様。しかし、私としましては、楽しんでいるルシア様を眺めるだけで胸がいっぱいですわ。
「じゃ、イーたんは斧」
大剣を持ったままのルシア様が大斧を持ち上げて、私に差し出してきました。
その光景にどよめきが起こり、ヒソヒソ話が始まりました。
え?何のヒソヒソ話ですの?
「ふん! るーたんはるーたんだから、イーたんじゃない」
えっと……もしかして巨大武器を軽々ともっているルシア様を、私と勘違いされているということですか?
姿を変える魔道具をつけているので、誰かわからないかもしれません。しかし、ルシア様は竜人の末裔のレイム族なので、それぐらい持つことができるのでしょう。
「ほら、イーたん。持つよ」
ルシア様に押し付けられるように渡されてしまった大斧。
そして距離をとって大剣を構えるルシア様。
これはもしかして、私と手合わせをしようとしていますか?
いや……それは……
「いく」
その一言だけ呟いて姿を消したルシア様。気づいたときには目の前にあらわれて、剣を振り下ろしていました。
それを大斧を斜めに構えて軌道をそらします。
「イーたん。るーたんの速さについてくるの凄い。るーたん負けない」
あの? これって勝ち負けの勝負なのですか?
ただの手合わせではないのですか?
ルシア様は、戸惑っている私に勢いよく剣を振り下ろしてきます。それをいなし、距離を取りました。
小柄なルシア様が大剣を扱っている時点で凄いのですが、その速さが尋常ではありません。
それから私は、こういう武器は得意ではありませんわ。だって私やルシア様のように小柄ですと身体全体で扱わないと、ただ武器に振り回されているだけになってしまいますもの。
右手で大斧を持ち、『尾』の構えをとります。斧の刃を下に向け背後に構えるのです。
そして少し重心を下げました。
再び一気に距離を詰めてきたルシア様。そして今回も上から下に向って大剣を振り下ろしてきました。
武器が大きいと横に振るうとそれだけで、重心がズレて隙ができてします。だから大剣を扱いきれないルシア様は上から下に振り下ろしているのでしょう。
その大剣に向って下から上に振り上げる大斧。このまま行けば、大剣は真っ二つに折れて飛んでいくはずです。
大斧の刃が大剣を捉えたというときに、ルシア様は後方に宙返りをして私の攻撃を交わしました。
メイド服でその動きをするとは、凄いですわ。
「ルシア様……ルシア先輩。そろそろ手合わせは止めましょうか」
「イーたんは本気じゃない」
ははははは……本気になどなったら大変ではないですか?
「るーたんはイーたんの本気を見たい」
えっと困りましたわ。




