大公理-眞究竟眞實義-
天易眞兮くんが銅製の鋲で補強されたセルジュ・ドゥ・ニーム(ニームの綾織。いわゆるデニム)の尻ポケットから、『BLUES HARP』※ホーナー社製の単音一〇穴ハーモニカ。木製ボディ、金属製カバー。 を抜き、一〇穴のうち二つを窄めた唇で息吹、金属リードを震わせ、即物な音を一秒と少し。
ちょっと耳ざわりで、少しかなしげな、ハーモニカのひびき。をかしくもあり、そこはかとなく懐かしき、乾いた日差しの、さらさらとあきらけくすみあけし、秋の寂び。孑とありし金属音の、在りさま侘びし。
狂裂。
あたかも、ブリキ(※錫で鍍金した鋼の板)の空き缶、蓋があいたままからっぽの、時が止まっているかのように無表情な。
存在が炸裂であった。在るという、ただ、それ丈で、狂奔裂である。見境なき自在無礙、解放をも解き放つ狂解放、無際限をも遙かに超えた自由、タブーなく、定義なく、かたちなく、空をすらも絶する絶空に説明などあろうはずがない。何があってもおかしくない。とてもかくても候。
※「どうなっても、よろしゅうございます」の意味。世の無常を想えば来世を願うのみ、現世のことは、どうなっても構わない、という趣。編者不詳『一言芳談抄』より。
「なぜ、非存在でなく、存在か」など問ふも愚か。宇宙開闢の原因・理由・根拠・意味・意義など考えるまでもない。睿らか。狂奔裂 乃ち是狂奔裂をすらも牽き裂き千切り破り棄つ異屰の窮み、却って、日常茶飯事。空前絶後の叛狂奔裂、寧ろ、凡事へ還る。静寂莫の裂帛たり。仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺す勢い、狂い咲きて傾く、それ究竟平常道。
※「いかにいたせば、平常道に至れるでしょうか」「為さんとすれば乖離してしまうであろう。とは言え、為そうとせずば何も為せず。又、為さぬと想うも為すのうちである」。
空、是空なれば非空(実存)。蕭々たる雨に濡れそぼる石彫りの、路傍の草叢に孑然とたたずむ道祖神、雫をつたわらせ、緑濃く苔生したる。