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「館山宍人です。よろしくお願いします」
「鼎瑞穂です。こちらこそよろしくお願いします」
花見の丘での話は2時間ほど有した。うち30分は俺が体調を悪くしたせいだ。乗り越えたと思っていた紗理奈の死も、思い出したことにより再度吐き気に見舞われた。場所を変えるかという話も出たが、いつまでもこうしてはいられないからと首を振り切り替えて話を終えた。
結構覚えることが多かったが封印するに必要な手順となると、逆に少ない方なのかなとも思った。俺が確認しながら話していると、鼎さんから協力してくれる神社の方はと聞かれたため館山さんを呼び出した。
「それでは月崎さん。私は館山さんとお話があるので」
「あ、わかりました。あリがとうございました」
「いえ、渡されたものをしっかり覚えてください」
「はい」
俺と神社組はここで分かれて、俺は受け取った紙と、それから覚えなくてはいけない注意点を頭に入れながら三廻部家に帰宅した。
和真さんは買い出しに出かけていて留守みたいだ。普段は和繁さんと和真さんの声で騒がしい家も、和真さんがいないだけでだいぶ静かだ。
「和繁さん」
「伏二くん。おかえり」
「……ただいま戻りました」
和繁さんは縁側に腰掛けていた。多分和真さんが座らせてくれたのだろう。のんびりと空を眺めている和繁さんは物静かな紳士に見える。
まさかおかえりと出迎えられるとは思わなくて目を見開いた。柔らかく微笑む和繁さんの表情が和真を見るのと同じで、少々照れくさい。
和繁さんの隣にゆっくりと腰を掛けてどう切り出そうか迷う。浄孔寺の僧侶に聞いたことを切り出していいのかも、迷いどころだ。でも、いいか。言っても。
「湖舞戸神社の神主さん」
ピクリと和繁さんの肩が揺れた。触れてほしくなかったのか、それとも。いずれにせよ、和繁さんとは関わりのある人だった。
「……和繁さんのご友人だったんですね」
「……住職からか」
「……俺が聞きました。すいません」
「いや、良いんだ……あんな態度を取っては不審がられても仕方がない」
歳の離れた幼馴染だったと浄孔寺の僧侶から聞いた。10歳も年齢差があった関係である程度の年齢になると関わりもなくなって、持病が悪化して亡くなった際の葬式で再会したのだという。
なんとも重い話だ。僧侶は泣きながら話す和繁さんを見ていたから、何も言わなかったのだと昨日教えてくれた。こんな話は特に息子の前でしたくなかっただろう。
「……亡くなってからなんだ。協力関係にあった神社だと知ったのは」
「……そうですか……」
「あぁ……」
和真には内緒にしててくれと困った顔で微笑まれてしまえば頷くしかない。もちろん元々言うつもりが無かったとしても、和繁さんにとって必要なのは肯定だろう。
暫く間を開けてから、鼎さんと話したことを告げた。鼎さんが和繁さんにも教えて良いと言っていたし、今は館山さんと一緒にいる事も。
「館山さん達が揃ったら当日の確認だな」
「はい」
そうして話している内に、僧侶が和真さんと共にやって来た。どうやら和真さんの帰り道に遭遇したらしく、2人で仲良く歩いてやって来たようだ。
和繁さんを支えるように立たせて、和繁さんの部屋へ向かった。館山さんと鼎さんが来るまでの間、和繁さんと僧侶の出会いを話し尽くされた。和真さんは半分以上聞いてなかったのは、慣れているからなのだろうか。聞く気がないだけなのだろうか。
……意外と仲良しだな、この2人。