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おかえり  作者: くらうち有華
暗晦
190/211

190

 僧侶とは浄孔寺で分かれ、夕方前に荻谷ヶ隅に着いた。荻谷ヶ隅のいつもの駐車場で和真さんが待っていてくれた事は流石に驚いたが、和真さんのいつもの優しい笑顔を見たら何も言えなくなってしまった。

 慣れたわけではない三廻部家に、こんなにも容易く安心してしまうのはどうしてだろうか。父がいる実家じゃないのにそういう安心感を感じる。


「お邪魔します」

「父は奥にいますよ。月崎さんに会いたがってました」

「わかりました」


 和真さんに言われた通り、いつもの奥の部屋に行く。何かの資料を眺めていた和繁さんだったが、俺が来たことに気づくと厳しげな目を柔らかいものに変えた。


「いらっしゃい」


 横にいた館山さんと共に、和繁さんの目の前に座りお土産を渡す。いつもいつもお世話になってるのに受け取ってもらえないから、今回ばかりは強硬手段に出た。和真さんに予め好きな物を聞いて、大福が好きだという事を知ったので大福に合う茶葉を用意した。大福を選んだのは館山さんだが、和繁さんの目の色が変わったのはしっかり見えた。よし。


「足の具合はどうだ?」

「問題ありません。毎日、お清めをしているので」

「それならよかった」


 大福と茶葉が目の前にあるからか、普段よりもうんと表情が和らいでいる。3度目になって初めて知る。和繁さんの可愛らしさ。ソワソワと落ち着きがない様子に、館山さんと2人で顔を合わせて笑みが溢れてしまう。

 ハッ、とした顔の和繁さんが咳払いをしたのをきっかけに鞄から木像を取り出した。


「浄孔寺でも見せてきました」

「問題なさそうだ」

「あリがとうございます」

「先程、坊さんから連絡が来て、木像を1体駄目にしたと」

「はい。出来を見てもらおうと触れてもらった瞬間に」

「そうか……」


 眉間のシワを濃くした和繁さんに、鞄の中に沢山あると言うことを告げると、安心したような不安そうな、そんな複雑な目で笑みを浮かべた。


「まぁ……木像には問題ないし、今日はもうゆっくりしてくれ」

「あリがとうございます」

「館山さんも遠い中、来てくださったんです。ゆっくり羽を休めてください」

「あリがとうございます。私まで泊まらせて頂いて」

「いいんですよ」


 和真、と和繁さんが呼ぶと遠くの方から和真さんが走ってやって来る音がする。そんなに急いで来なくても……。

 すぐに戸は開けられた。思ったよりも和真さんの足が速くて驚いたのも束の間、和繁さんに和真さんが窘められていた。こういうところを見るとまだ若いなぁと思ってしまう。もう歳か。

 なんて。三廻部家に着いてから、かなり気が抜けているようだ。こんな思考になるのは力が抜けてる証拠だ。力み過ぎても意味はないが、注意は残しておかないと。


「先に館山さんを案内してくれ。俺は伏二くんに話がある」


 館山さんの後に続こうと思い、一歩足を踏み出した時、そんな事を言われた。俺の顔と和繁さんの顔を交互に見た和真さんが頷いたのが見えたと思った直後に、和真さんの手によって戸が閉められた。和真さんも俺に対して容赦がなくなってきてる気がする。気のせいだろうか。

 和真さんの声が遠くに行ったのを確認して、和繁さんに向き直ると、いつの間にか俺が渡したお茶が淹れられていた。


「……君が言っていた、鼎という人物を見つけた」


 彼女で間違いないか? と差し出されたのは写真。この間撮ったであろう日付を確認し、もう1度和繁さんの目の前に座る。

 写真に映っていた場所は、蟷螂荻谷スキー場。兄さんと逸れ、鼎さんと出会った場所。


「間違いありません……」


 俺が忘れてしまった言葉を教えてくれた人。このあと待つアンカイの封印の助けになるかもしれない。

 良かった。見つかって。ホッと、1人、胸をなで下ろした。

 俺が忘れてしまったあの言葉。あれはきっと、もう1度教えてもらわなくちゃいけないんだ。

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