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おかえり  作者: くらうち有華
新木七海
18/211

18

 始まりはいつからだっただろう。気がついたら私がおかしくなっていたのかもしれない。

 パパとママと私と弟の歩。4人で幸せに暮らしていた。共働きなのにいつも綺麗に整理されていた我が家は何よりも住心地が良かった。幼馴染の春ちゃん、こと、小春の家とはまた違った落ち着きがあって私は家が大好きだった。異変が起きたのはある朝の日のこと。いつもと何ら変わらない朝だった。


 桃色と白色を基調とした部屋。ふわふわのラグに、ふかふかのベッド。そこに似合わずに存在する胡里高校の制服。いくら着慣れたとはいえ普通に制服を着るではダサすぎるから簡単に着崩して着る。いつも学年主任の先生と風紀委員に怒られるが聞く耳は持たない。私が私を可愛いと思える格好をして何が悪いのか。

 学校という閉鎖空間は社会の縮図という。先生という上司の言う事を聞き校長というお偉いさんの話を聞く。謎の多い古臭い校内ルールは確実に。だから何だって言うんだ。

 春ちゃんと遊びに行った都内ではOLさんと呼ばれる人も綺麗な格好で可愛い格好でメイクもバッチリ決めて仕事へ向かうというのに。学校という場所では決められた同じ服を着てメイクは禁止、不順異性行為は禁止。社会の縮図と言う割には何も学べない所だし、社会へ出る前段階の学びとも言うけど、何かを得られるものは見つからない。

 人より秀でた記憶力を不正だと決めつける人もいるし、人に教える立場でありながら人の個性を否定する学校(しゃかい)なんて面白くない。

 目隠ししておいた姿見で制服の確認をして1階のリビングへ向かう。7時にはママもパパも仕事へと出掛けていない。いつも朝早くに出ていって遅いと夜の10時に帰ってくる。4人でいるというよりも歩と過ごす時間の方が遥かに多い。

 リビングに着くと北欧風のダイニングテーブルの上に朝御飯がラップをかけた状態で用意されていた。朝食は冷めていても美味しい具沢山のサンドイッチとヨーグルトと少しのフルーツ。透明なガラス製の器に乗せられた朝食は、よくSNSで見かける丁寧な暮らしそのものだ。


「わー! 今日も美味しそー!」


 いつもの席に座って食べづらいサンドイッチに食らいつく。何度か咀嚼を繰り返している内に朝に弱い歩が眉間にシワを寄せながらリビングに姿を見せた。


「おはよう」

「ん……」

「今日、夕方部活でしょ?」

「ん……」


 まだ少し目が覚めていない歩を見ながら食を進める。嫌々というため息を出して顔を洗いに行った歩の後ろ姿は背中を丸めたワオキツネザルのよう。1度だけ見た動画ではお猿さんのほうがまだ機敏に動いたはずだけど。

 歩が着替え等々をしている間に食べ終わったので洗い物をさっと片付ける。私の家から胡里高校までは若干距離があるが、歩の方は目と鼻の先なので朝練がない日はいつもこうだ。


「あ、ねぇ、そういえばさ梅ちゃんと最近どうなの?」

「は?」


 やっと席に着いた歩に向けて声を掛ける。梅ちゃんこと、梅乃。小春の妹で私達姉弟の幼馴染。歩と梅ちゃんが付き合い始めたのは中学に上がって暫くしてから。いつもは当たり前に側にいたけど中学では話すことが無くなった事がキッカケでお互いに気持ちに気付いたと言っていた。良いことだ。私も彼氏欲しい。


「……ねーちゃん何言ってんの?」

「え? 何って、梅ちゃんのことだよ。歩の大好きな彼女の話だって。照れなくたっていいのに、今さら!」


 訝しげな顔の歩に茶化しを入れる。小さな頃から知ってるとはいえ、今さら照れることでも無かろうに。


「はぁ!? おれ、彼女なんかいねーけど!?」

「は!? え!? 何別れたの!?」

「ちげーよ!! まず誰だよ!! 梅って!!」


 知らねーよ、そんな奴と言い放った歩に理解が追いつかなかった。だってこの間まで一緒にいたし、何より小さな頃から知ってる幼馴染を忘れるってどういうこと。それとも喧嘩でもしてるのか、なんて思ったけど歩の困惑した表情は嘘偽りのない本当の顔で。本当にわからないという顔をしていた。


「な、何言ってんの? 梅乃は幼馴染じゃん! 小春の妹の!!」

「ねーちゃんこそ何言ってんだよ!! 小春ねぇに妹なんかいねーだろ!!」

「は…………? え、何言って」

「ねーちゃん変だよ。病院行ったら?」


 理解が追いつかない。この弟は一体何を言っているのか。その顔が本気で私のことを心配しているから、居ても立ってもいられなくなってそのままリビングを飛び出した。

 ねーちゃん! と呼ぶ声が聞こえるがそんなの聞こえないふりをして階段に置きっぱなしにしてある鞄を雑に掴んで学校へと逃げていった。

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