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校舎の外に飛び出て新木を探す。授業を受け持ち担任という立場の人は探す事ができないから、俺のような副担任と事務員の人達で手分けして探すことになった。
いつもの迷惑行為だと桜木先生には言われたが、そんな事を言って生徒に何かあったらどうするんだと言う声に黙るしか無かったようだ。
牛久を教室に戻すよう説得させようとする教師もいたが、牛久は何が何でも縦に首を振ることはなく着いていく事を懇願してきた。先に折れたのは手分けする俺達の方だった。
新木をあまり知らない事務員の人間もいるし、教師には聞かれたくないことだってあるはずだし、何よりいつも一緒にいる牛久ならば大丈夫な筈だと判断した。
「月崎せんせ!!」
「塚田は?」
「七海を追って行っちゃったっす!」
「塚田の居場所は?」
「慌ててたんでスマホを持ってかなくて……!」
スマホが無い状態では肝心の塚田とは連絡が取れない。それほど焦っていたのはわかるがせめて携帯してほしかった。
しらみ潰しに探すしかないかと町中を走り、道行く人に胡里高校の生徒を見かけなかったかと尋ねるが良い情報は得られない。
人気の無い場所で立ち止まり一度呼吸を整える。こんなに走り回ったのはいつぶりだろうか。教師用のスマホにも連絡が入ってこないあたり、新木の捜索は難航しているのがわかる。
「牛久。新木が行きそうな場所とかはわかるか」
「カフェとかなんすけど、様子がおかしくなってからは近寄ってないっす」
新木のバイト先に電話をしても今日は見ていないと言う。それどころかバイト先も覚えていなかったようでここ数日は無断欠勤が続いていたようだ。
新木の行ったところ、行きそうなところは今まで通ってきた道にあったが新木の気配は一度も見ていない。となると、残るはどこだ。
「……牛久。新木の行方が分からなくなる前に新木が気にしてたこととかって覚えてるか」
「気にしてたこと……」
「どんな些細なことでも良い」
はじめから牛久に聞いておけば良かったと後悔の念が今になって現れるが、過ぎてしまったたことを気にしていても時間の無駄だ。この反省は後でやればいい。
「あ、あの、あれ、山みてた」
「山?」
「あれ!!」
牛久が指差した方向にあったのは森。山と言っていいほど木々が覆い茂っている森だ。胡里高校から真正面で見えるが意外と距離があるし生徒の大半は行ったことがない場所だ。俺達のような大人でさえ滅多なことがない限り行かないような。駅からも遠く森に続くバスも日に数本しか出ていないあの場所は。
そこでふと思い出した。そういえば新木に送られてきたというあの謎の動画には川が映っていなかったか。川に人影のようなもの。川に黒いパーカーを着た人物がいたと。あそこの森には川があったはずだ。
嫌な胸騒ぎがする。
「行くぞ」
「はっ、え!? あ、待って月せん!!」
車を使った方が速いと脳内でもう一人の俺が出ては引っ込んでいった。車は確かに便利だが細道を通れない。俺の後を追ってくる牛久を確認しながら森へと続く急坂の細道へと突き進んでいく。
「月せん!! この道であってんの!?」
「森へ続く近道だ。新木がいる保証はないがな」
可能性はほぼ0に近しい。森に行く証拠もない。だがもし新木や牛久の言っていた川があの森の中ならば、もしかしたら新木が喚ばれているかもしれないとふいに思ってしまった。そんなわけないと思っている自分も確かにいるのに。
細道を抜けると開けた道に出た。陽の光が差し込むその場所に座り込む2つの影があった。
「七海! 塚田!」
「牛久! 月崎先生!」
あぁ、良かった。無事でいてくれた。
ホッと息を呑みながら近づき新木に声をかければ、呆然としたまま森への入り口を見てポロリと涙を溢した。
「せんせい……わたし……もう……わかんないよ……」
なにもかも。
震える声で大粒の涙を流して俺を見上げた新木は迷子の子供のようだった。