お詫びの約束
落ち着かない、眠れない。
寝返りもうてない。
かと言って、起きて解毒剤を作ることもできない。
それを阻止するために、今ベッドでノアに後ろから抱きしめられているのだから。
「あの、薬は諦めるから離してもらってもいい?」
「むり」
お伺いをたてるが、あっさり断られる。
夕方薬がきれていないと発覚した後、とりあえず3人は一旦家に帰った。
一晩まともに寝ていないので、みんな疲れが溜まっていたからである。
これで離れたらノアも落ち着くかもと思っていたが、夜になってノアは戻ってきた。
どうやらお風呂に入って、荷物を取ってきただけのようだ。
私を見張っていないと、寝ずに薬を作り続けることを危惧したらしい。
まさしくそうしようと薬の調合を試し出していたところなので固まった。
あれよあれよと言う間にベッドに運ばれ、今に至る。
この半年かなり濃い付き合いをしてきたが、同じベッドで寝たことはないし、抱きしめられたこともない。
ノアの行動は薬のせいと分かっているが、後ろから抱きしめられてドキドキしない人なんているのだろうか。
私の心臓はずっと早鐘を打っている。
力強く抱きしめられており、どうせここから出ることはできない。
それなら頭の中で薬の調合パターンを考えながら寝るのが一番だ。
ノアのことは極力意識から追い出し、成分を思い浮かべる。
「なぁ、やっぱり明後日は学校休め」
私を抱きしめながら通信機器を操作していたノアが言う。
「むしろ作業進むしちょうどいいけど。どうかした?」
明日は元々休みなので、明後日から学校だが、正直家にいる方が作業は進む。
それにノアは反対していたが、やはりノアと今は離れた方が薬の効力も薄まるかもしれない。
「なんでも」
通信機器を片付けた、ノアが私の頭に自分のおでこを猫のようにこすりつける。
甘えるようなその仕草に、胸の奥が甘くざわつく感覚がした。
いやいや、何を意識しているのだ。
これはあくまで薬のせいで、私が好きなのはリアムさんなんだから。
ただのゼミ仲間のノアをかわいいなんて、キュンとするなんておかしい。
「明後日は休むよ」
断る理由もないし、なんなら1週間丸々休みたいくらいだ。
そう言うとノアがほっとしたように息をついた。
何かあるのだろうか。
それともノアの理性が、やはり学校で惚れ薬が効いている状況はまずいと判断したのか。
いずれにせよ、迷惑をかけたのは私である。
できるだけはやくノアを解放し、ノアが望むことはなんでもしたい。
「ノア、本当にごめんね」
「もういいって。薬も切れてるって言ってんだろ」
いや、切れていないよと私を抱きしめる腕を見つめながら思う。
口が悪いけど、ノアは彼女ができたらこんな風に抱きしめて寝てあげるのかな。
そう考えると、ずきりと胸が痛んだ気がして慌てて胸を押さえる。
「どうした?」
ノアが心配そうに私を見る。
なんで胸が痛むの。
感じた違和感を振り払うように、ノアに話しかける。
「解毒剤作れたら、お詫びになんでもするから」
その言葉にノアがピクリと反応する。
「なんでも?」
「えぇと、可能な範囲でお願いします…」
本当に申し訳ないと思っているし、なんでもとは言ったが金銭的なものは限度がある。
そっと付け足す。
「ふーん。楽しみにしとくわ」
そう言って笑ったノアの顔はいつもの意地悪そうな笑顔に見えた。




