ゼミ仲間
夜、私はそわそわと自分のアパートの前をうろついていた。
「リリアーナ大丈夫?」
箒で降り立ったユーリが駆け寄ってくる。
さらりとした黒髪が跳ねる。
「ユーリ!」
「俺もいるよ」
ユーリの後ろから、赤髪を短く刈り上げたイーサンも現れる。
「イーサンも来てくれてありがとう」
二人は私とノアと同じゼミの同級生だ。
「で、緊急で集まって欲しいってなに?」
イーサンが首を傾げる。
「ユーリには話していたんだけど、私、今日リアムさんに惚れ薬を飲ませようとしたの」
「おろ。思い切ったことしたね」
リアムさんに憧れていたのはイーサンも知っているので、まぁまぁの驚きだ。
ユーリは実験にも協力してくれた。
「どうなったの?」
食い気味に尋ねてくる。
「それが…ノアが飲んでしまったの」
「えぇ?!」
二人が目を丸くする。
「それは緊急事態だわ…」
「そうなの、だから二人に…」
「遅い!」
私の言葉が遮られた。
恐る恐る振り返ると、そこには不機嫌そうなノアが立っていた。
「迎えに出るだけって言ったのに、全然戻ってこねぇし」
がばりと私に抱きつく。
その様子にユーリが感心したようにうなずく。
「こんなノアを見る日が来るとは。やっぱりリリアーナの薬は強力ね…」
「感心してる場合じゃなくて!とにかく今のノアと二人きりは私の心臓がもたないから、二人に来て欲しくて」
「心臓もたないってなに?」
ノアが後ろから私の顔を覗き込む。
キスせんばかりに近づいた顔に勝手に赤面してしまう。
顔を背け、なんとか平常心を取り戻す。
「と、とにかく部屋に来て」
ユーリとイーサンに助けを求めた。
結局、私は薬のせいで離れたくないというノアを振り払うことができず、私の家に連れてきたのだ。
しかしこの状態のノアと一晩を明かすとなると、心臓に負担がかかる。
そこでユーリとイーサンを緊急招集したのだ。
当たり前のようにノアに手を繋がれたまま、部屋に入る。
ユーリが私に小声で耳打ちする。
「記録取っといていい?」
ノアのこの姿を残したら、逆鱗に触れそうな。
一瞬迷うが、ユーリにはいつも協力してもらっているのでうなずく。
そしてユーリが映像がとれる小型の記録魔法機を展開させる。
ユーリは研究熱心で、私の今までの実験も記録してくれている。
惚れ薬の効果を試した時の、私がユーリに熱い視線を向けている映像もしっかり残っている。
私は普段こんな目でリアムさんを見つめているのだろうか、と恥ずかしくなったものだ。
「飯食おう」
先にリビングに入ったイーサンが呼びかける。
「はいはい」
たしかにお腹が減った。
食べてからこの後のことはゆっくり考えよう。




