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伝えたいこと


箒を走らせ、ノアの家の前に辿り着く。

インターホンを押すと、タオルを首にかけ、濡れた髪のノアが出てきた。


なんたる色気。

勢いよくやってきて、告げようとしていた言葉を引っ込める。

あまりの色気に直視できない。


さっと視線を外すと、ノアが不思議そうに呼びかける。

「リリアーナ?ちょうど風呂上がって、お前の家行こうかと」


「あっ、うん、えっとそうだね。家で待ってる」

これ以上ノアを見ていられない。


「は?すぐ用意するから待っとけよ」

招き入れるように扉を開けたノアに首を振る。


「いや、大丈夫!よく考えたらちょっと落ち着かないと」

そうだ。勢いでやってきてしまったが、まずは家にある解毒剤を飲んでもらわないと。


「じゃあ!」

ノアの返事も聞かず、再び箒にまたがり、夕暮れの空を飛ぶ。


そわそわと落ち着かない。

はやく言ってしまいたいような。

言ってしまうのが怖いような。


解毒剤を飲んだらノアは正気に戻る。

その時にもう一度惚れ薬のことを謝って、そして私の気持ちを伝えよう。


ノアはどんな顔をするだろう。

惚れ薬の効果がなくなったら、もう私のことなど目に入らないだろうか。


ノアの好きな人のところに行ってしまうかもしれない。

それでも仕方がない。


惚れ薬を飲んでいないノアに好かれないと意味はないのだから。


家につき、落ち着かず部屋の中をぐるぐる回る。

しばらくするとインターホンが鳴った。


びくりと肩を震わせ、深呼吸をする。

そして扉を開けると、そこには待ち人であるノアがいた。


「えっと、いらっしゃい」

へらりと笑って迎え入れるとノアが顔をしかめる。


「こんな時まで無理して笑わなくていい」

「えっ?」

なんのことかわからず、ぽかんと口を開ける。


私が間抜けな顔をしているので、ノアが言いにくそうに視線を彷徨わせる。

「兄貴と話したんだろ。それでさっき俺のとこ来たんじゃねぇのかよ」


「あっ」

忘れていた、とまでは言わないが、そのことはもはや遠い記憶となっていた。

たった数時間前のことなのに。


「泣きたかったら泣け」

そう言ってノアが私を抱きしめる。

ノアのぬくもりに、自分の体温が上がる。


だが、違うのだ。伝えなければ。

ノアから離れ、薄紫の瞳を見つめる。


離れた私をノアがどこか不満気に見る。

私は深く息を吸って、ノアに思い切って伝える。


「あのね。ノアが解毒剤を飲んでから、話がしたいの」

ノアが何か考えるように視線を上にやってから、こくりとうなずいた。




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