求めるもの
だが、唇は触れなかった。
ノアの手が私の口を塞いだからだ。
明確な拒否に熱に浮かされたようになっていた気持ちが沈む。
「嫌、だよね」
この想いは私の一方通行なのだから。
さっき薬を飲んだけど、それだけでこんな気持ちになるかな。
ノアに拒否されて胸が裂けそうなほど痛い。
あれ?でもノアも惚れ薬を飲んでいるから私のこと好きなんじゃ…
考えこんでいるとノアの声が降ってきた。
「違う」
ノアの硬い声に顔をあげる。
「今のお前としたって意味ないし。むしろお前が後悔するぞ」
「後悔?」
こんなに恋焦がれているノアとキスして、後悔することなんてあるだろうか。
首を傾げるとノアがため息をつく。
「どうしたの、ノア」
ため息をつくノアが心配で、ノアの両手を自分の手で包み、見上げる。
ノアは手にちらっと視線をやると
「なんでもない」
と答えた。
「本当に?ノアって自分の悩みを人に言わないよね」
「そうか?」
そう言いつつ、思い当たるところはあるのか、反論はしない。
「そうだよ!いつも研究の時も、私が悩んでると何気なく話聞いてくれるけど。ノアの悩みは聞いたことない」
この半年、かなり濃い時間を過ごしてきたし、助けられたことは幾度となくあったが、私が助けたことなどあっただろうか。
「苦手なんだよ、そういうの話すの」
「リアムさんにも話さないの?」
ノアが唯一懐いているといえる人物はやはり兄のリアムさんだ。
思いついたまま口に出すと、ノアの眉が寄る。
「薬飲んでも結局兄貴か」
ぼそりとつぶやく声が聞こえ、目をぱちくりさせる。
「えっ?私はノアのことを今聞いているんだよ」
掴んでいる手に力を込めたので、ノアが驚いたように私を見る。
「私はノアのことが知りたいの。ノアって他の人にはツンツンしてるのにリアムさんだけには懐いているし」
ノアの特別はリアムさんである。
ノアの特別になるにはどうしたらいいのだろう。
私の熱い視線に困ったように目を逸らす。
「別に。兄貴は兄貴だから」
「ううん」
わかるようなわからないような答えだ。
リアムさんがリアムさんだからということか。
私が首を捻ったので、ノアが迷うように言葉を続ける。
「兄貴は昔から変わらない。俺のこと普通として扱ってくれる」
「普通…」
たしかにノアはこれまでずっと他の人とは違う存在だっただろう。
否が応でも人の視線を惹きつける圧倒的な見た目とオーラ。
そして頭の良さ。魔法の強さ。
なんでも器用にこなすように見える。
どうしたってみんな、完璧なノアに注目する。
きっと完璧でなければ、もう少し注目度はマシだっただろう。
だけどノアは手を抜くということは知らない。
ノアはいつだって、何に対しても真面目で全力だ。
私たちの合同研究だって、自分の課題だって手を抜かず真剣に取り組む姿をいつも見ていた。
注目されることに疲れているくせに。
それでもノアは今までちゃんと全て頑張ってきたのだ。
「私、ノアの頑張り屋なところ好きだよ」
自然にこぼれ落ちた言葉にノアが目を見開く。
「急に何言ってんだ」
顔を背けたノアの耳が赤い。
「かわいい」
その赤い耳を見て、つぶやいた。




