5.戦争と平和
勇者パーティーの3人は大魔王の居城を訪れていた。マンボウの居城よりも幾分立派だ。
「よく来てくれた。はじめまして勇者ルミウスよ。そしてミエル、マリエよ」
大魔王は女だった。それもミエルやマリエより若い見た目で紫の髪の間から角が生えているのが見える。
ルミウスは大魔王に興味をしめさずチョークで地面にマンボウの絵を書いている。静かにしていてくれて嬉しいとミエルは思った。
「それで、なんの要件でここへ来たのだ?停戦協定はすでに結んでいるし何か用件があるようには思えないが……」
「はい、大魔王ルシアさま。今回はその停戦協定に絡んで、折り入ってお願いがございます」
大魔王ルシアは眉間にシワをよせた。
「述べてみよ」
「勇者ルミウスはこんな状態ですわ。マンボウの呪いにかかってどうしようもありません。これをもとに戻してもらわないと勘定が合いません」
大魔王は健在。勇者は壊れた。これでは人族が一方的に不利な条件で停戦をしていると思われてしまう。そういう論法で責任転嫁を謀る。
ルミウスは地面にマンボウに紋様を入れ始めた。
「ふむ、なるほど、分かったぞ。しかし、我はこいつの元の状態を知らぬ、どうすればよいのだ?」
「1年前……いいえ2年前の状態に戻してください。そうしていただければ私からは何もありません」
「分かった。いいだろう……2年の時を戻すのだな。我にとっては容易いことだ。準備があるゆえ待っておれ」
そう言うと魔王は部屋を出た。
「これでやっと元に戻るのね……」
「ええ、これでやっと……」
2人には、3人で一緒に旅をしてきた日々が記憶によみがえる。
ー―ゴブリンを3人ではじめて倒した時
ーー洞窟の中で雨宿りした時
ーーガーゴイルと戦ってボロボロになって生き残った時
ーー海を渡りマンボウを倒した時
思い出でいっぱいだ。苦しかった。楽しかった。辛かった。いろいろな感情が渦巻き、涙が溢れてくる。
マンボウを倒してからは最悪だった。でも今日全部報われるのだと思うと、涙が止まらない。
停戦した時、既に戦争は終わっていた。しかし、ミエルとマリエの戦争は続いていた。今やっと二人の戦争が終わる。
平和な日々をただ過ごすことができるのだ!
ルミウスはお絵描きに飽きたのか、マラカスをシャカシャカと振ってマンボを踊っている。すると大魔王が戻ってきた。
「待たせたな。時空間魔法は道具が肝だからな。じゃあ始めようか」
――グラグラグラグラ
それと同時に勇者の書いたマンボウの落書きが黒い異様な光を放ち始め、城全体が揺れる。
「な、なんだこれは!?おい、勇者に我の城で何をさせた!?」
「知りません!なんか勝手に光り始めたんですよ~」
すると今まで黙っていた勇者ルミウスが口を開く。
「ついに、ついに復活の時です!!!マンボウ様は今日復活なさるのです!!!」
「な、何をおっしゃっているのですか?どんな方法でも死んだ人は生き返らないのですわ!」
「いいえ、復活です!そこの大魔王を生贄に復活なさるのです!」
よく見れば大魔王の体は薄くなり、半透明になっている。
「な!?おい、勇者を止めろ!時空間魔法は我しか使えぬ!もし我が死んだら大変なことになるぞ!!!」
「そう言われても……ルミウス!やめなさい!」
しかしルミウスの耳には届かない。マンボウの絵からの光が強くなりルミウスに近づくことができない。
「……僕ですね~~。ずっと償いたかったんですよ。1年間ずっとですよ。母親を殺して僕のことが憎かったでしょうね。分かります。僕もとてもつらかった。だからその母を復活させれば償いになると思ったんですよ。だから僕は聖職者になり、死者蘇生の儀式魔術の準備のために毎日眠らずに踊り続けました。そして今日ついにマンボウ様は復活なさるのです!」
「な、何を言っている!?おい早く止めろ!じゃないとー―」
「時は満ちました!ウーーーーーー!マンボウ!」
大魔王ルシアの姿が消える。
そして、一匹のマンボウが魔法陣の中から現れる。
「な、なんで……ルミウス!元に戻しなさい!大魔王様を返して!」
「ああぁぁ~~~ハッハッハッハ。マンボウ様の復活です!これで!!!わたしは!!!やっと!!!寝むれる!!!!!」
そう言ってルミウスは倒れた。その寝顔はまるで母の腕に抱かれる赤子のように穏やかだった。
「なにこれ……」
「どうしようもないですわ……」
二人はマンボウに近づいた。
しかしマンボウは冷たいまま動かない。
復活の儀式は失敗に終わった。魔術は不完全だったのだ。
その後、大魔王は勇者に殺されたとして、魔族と人族の間で戦争が起こった。
いや、戦争も前と同じ状態へ戻っただけだ。
ルミウス、ミエル、マリエは国外へ逃亡し、どこかの国の田舎で農業をして静かに生活しているらしい。
以上で最終回です。お付き合いいただきありがとうございました。
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