2.私の頭の中のドアノッカー
マンボウ打倒記念パーティーから一週間後、勇者パーティーのメンバーは冒険者ギルドに集まっていた。
「ねえルミウス……体調悪そうだけど大丈夫?」
勇者パーティーで魔術師をしているミエルが心配してくれる。
「ああ……ここ一週間眠っていないんだ……それだけだから大丈夫だ……」
「一週間も!?ルミウス、なにかのお仕事で徹夜続きなの?」
「そうじゃないんだ……ただ、うるさくて眠れないんだ……ドアノッカーが……ドアノッカーが頭の中にあるんだ。だから……この頭を切って……ドアノッカーを取り出さないとなぁ……」
そうしてルミウスは聖剣に手をかける。
「ちょっ!? ダメだよそんなの! 死んじゃうよ~。ちょっと、マリエも手を貸してよ~」
二人は聖剣で頭をかち割ろうとするルミウスを止める。
ルミウスはロングスリーパーだ。一日に8時間以上寝ないと調子が落ちる。一週間も眠っていないから限界なのは当然だった。
「ルミウス様、一体どうされたのですか?よろしければ、私にお話してほしいですわ」
修道服を着ているマリエはまさに悩みを話す相手として最適に思えた。
意識を朦朧とさせながらもルミウスは最近寝ようとしてもうるさくて眠れないことを話す。
家で寝れば壁から音が鳴り、外で寝れば雨が振り、酒場で座って寝ようとすれば、ルミウスのいる場所だけ地震が起こっているかのように揺れる。
勇者は物音に敏感だ。冒険中は眠っている最中に襲われることもあるから、素早く起きて戦う事も必要だった。しかし、今回はそれが裏目に出た。
「なるほど……わかりましたわ……」
「そんなことが……誰か――反勇者組織の嫌がらせかしら?」
「もう……とにかく眠いんだ……悪いけど次のワオキツネザルの魔王討伐は延期にしてくれないか……こんな状況で戦っても勝てないと思うんだ……」
勇者は誰に言うでもなくそうつぶやいた。
ミエルとマリエは、ルミウスの顔をみて同意せざるを得なかった。それと同時に早くなんとかしなければいけないと思った。二人は目線をあわせてうなずき合い、こう言った。
「そうだ!私達がルミウスの睡眠を邪魔する犯人を見つけてあげるよ!」
「そうですわ!このままでは残りの四天王討伐どころではありませんわ!必ず二人で犯人を見つけてあげますわ!」
「ありがとう……お願いするよ……」
そう言うルミウスの顔は死んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三人はルミウスの家を訪れていた。
王都に立つ一軒家で、一人が住むには大きすぎるくらいだ。
しかし、その家の様子は異様の一言だった。窓は土で塞がれ、壁は穴が空いたのを岩でで雑に塞がれていた。魔法を使ったのだろうと分かる。屋根の上には土魔法で作った新しい屋根ができ、二重屋根となっているが、穴が沢山開いている。入り口はもはやどこにあるのか分からない。築3年とは思えないくらい荒れていた。
「……なにこの屋根の上に屋根がある家……」
「ああ、それは天井がうるさいから屋根を作ったんだ」
「げ、玄関はどこなのかしら……」
「ああ、それはドアノッカーが鳴るとうるさいだろ?前に郵便屋が来た時に、音の犯人だと思って殴り飛ばしてしまったんだ……。でも玄関がなければもう誰も来ないし大丈夫だろ?」
「何が大丈夫なのでしょうか……」
よく見れば重力魔法で家は数センチ浮いている。地面からの振動を気にしての事なのだろう。
――アハハハ
――キャーー
外から僅かながら子供の笑う声が聞こえる。この3軒となりには子供の託児所があり、太陽が登っている時間は子供の笑い声が聞こえる。もっとも、普通なら気になるような大きさの声ではない。
「……チッ……こんなところに託児所なんか作りやがって……マジ○してやろうか……」
そう言って託児所を潰さなければ爆○すると予告状を作成する勇者ルミウス。
「ダメ~!そんなことしちゃダメ~!ね?そのうち引っ越ししよ?それで解決だよ!?」
「……そうか……引っ越しすれば解決するのか……本当だな!?本当に眠れるんだな!?!?」
血走った目を二人に向けている。
ミエルとマリエは勇者の変わり様に改めて驚いた。弱きを助け強きをくじく。人の悪口は言わない。こどもは守る。そんな勇者だったが、今は面影を感じられない。
「と、とりあえず家に上げてもらってもいいかな?マリエが消音魔法を使えるから、それでなんとかなるんじゃないかなって思ってるんだけど」
「消音魔法か。それはいいな。なら世界から音を消してくれよ」
「うーん。それはちょっと無理かなぁ」
ルミウスは家に入るため、壁を殴って入り口を作った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあマリエ、消音魔法頼む。俺は寝るから」
そういってルミウスはベッドに入った。
「〈サイレンス〉」
部屋の中から音が消える。ルミウスは目をつぶり眠っているようだ。サイレンスの魔法で音が空気中を伝わらないのでミエルとマリエは筆談で会話をする。
「(眠ったのかしら?)」
「(多分眠っていると思いますわ。これで大丈夫でしょう。)」
三人はまだ四天王の魔王をあと三人も倒さないといけないし、最後の大魔王まで倒すのが目標だ。こんな事でくじけている場合ではない。
「(これでひと安心――
ーードゴオオオオオオオオオン
そう書きかけた途端、家の天井から何かが降ってきた。その勢いで二人は目をつぶり、ミエルは魔力障壁を展開して爆風をふせぐ。勇者はその爆風を受けて、ベッドと一緒に部屋の隅へ転がる。
「な、なに?何が起こったの!?」
「わかりません!ルミウスさん!」
そう言って二人はルミウスの元へかけよる。
「ウッ、…………ね、寝むれない。俺はもう寝ることができないのか。神よ私は眠らずに大魔王を倒せ。そう仰るのですか!?」
「しっかりしてルミウス!あなた無神論者でしょ!?」
幸いにしてルミウスは軽症だったがマリエは回復魔法をすぐさまかける。
「〈ヒーリング〉!」
その間にミエルは何が落ちてきたのか確認する。
「なにこれ……魚?」
2重構造の天井を貫き落ちてきたそれは……魚だった。今では爆ぜた魚だ。頭の部分が残っていて、魚の血のニオイが部屋に充満する。マリエもその姿を確認する
「魚……これはマンボウですわ!」
「まんぼう!?なんでこんなのが天井を貫いて降ってくるのよ!?」
二人は混乱していた。マンボウなんてもう過ぎ去った事の話だと思っていた。今更になってなぜマンボウなのか心当たりがない様子だ。
するとマンボウ墜落の衝撃で壊れた壁から、人の体ほどあるマンボウが浮遊しながら侵入し、高い声で話す。
「貴様が我が母上の敵、ルミウスか?」
マンボウがしゃべった。
お読みいただきありがとうございます。
この作品を読んで面白いと思ったら、ブックマーク、評価、感想をいただけると嬉しいです。創作の励みになります。
評判が良ければ長編版を作成したいと思っています。