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転生したら普通に生きたい  作者: 猫又犬太郎
第二章 『神国』
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第七話 『路地裏』

 少女は、深々と頭を下げた俺を見ている。


 自分が助けたからと言って、いきなり押し付けるような勢いでお礼を言われても驚くだけだろう。

 実際、彼女も驚いている......


 ん?

 あれ、あんまり驚いてない?

 なんか普通に見下ろされてない?


 いやでもしかし、お礼を言うのは大切だ。

 命を助けられたんだからな。

 あ、でも少しいきなりすぎたかな。

 もう少し落ち着いてからのほうがよかっただろうか。


 そんなことを考えていると、彼女は表情を変えずに口を開いた。


「私からも礼を言うわ。ありがとう

 私も、一人じゃ逃げられなかったわ」


 彼女は淡々と、無表情でそう言った。


 きっと嘘なのだろう。

 この子は一人でも逃げられたはずだ。

 それをしなかったのは、俺があいつらに負けると思っていたからだろう。

 いざとなったら助けに入れるように。


 それなのに「一人じゃ逃げられなかった」と言ったのは、俺に気を使わせないためだろうか。

 頭が上がらないな。

 まぁ、もう上げてるんだけど。


 あの場で俺が勝てると思っていたのは俺だけだったようだ。

 なんか、恥ずかしいな。


「あなた、新人よね?」


 彼女は唐突に、その質問を投げつけてきた。

 俺はそれをキャッチすることができない。


「新人?」


 俺はその単語には聞き覚えがあるが、何の新人なのかがわからない。

 だからそう返すしか無かったのだ。


 しかし彼女は、俺の疑問を聞くとだいたい分かったかのように「やっぱりね」とでも言いたげな表情をする。

 その後、新人についての説明を始める。


「この世界ではね、この世界に来たばかりの人をそう呼ぶのよ

 それで?あなたは新人なのよね?」

「そういうことなら俺は新人になりますね」


 この子は少女ではあり、おそらく年下だが、敬語を使うべき相手ではあるはずだ。

 初対面だし。

 彼女に敬語を使うのは当たり前。

 まぁ、彼女は俺を助けてくれた訳だし尚更だよな。


 人間は歳ではなく、中身だ。

 俺は、年上だからと言ってふんぞり返っている人の気持ちは理解できない。

 長く生きているからなんだって言うんだ。

 実績を残しているやつの方が信頼できるし尊敬もできる。


 てなわけで、俺は彼女に敬語を使う。

 しかし彼女はどこかムッとした表情をして、黙ってしまった。


「ん?」


 と、俺はある事に引っかかった。

 さっき彼女が言っていた事の一部に。


「この世界に来てすぐの人を新人と言うのなら、この世界には転生者がちょっとだけ混ざっているんですか?」

「ええ。それも、ちょっとなんてもんじゃないわ

 一割くらいは転生者よ」

「そうなんですか......」


 彼女は、この質問にも少し不機嫌そうに答える。


 なぜ不機嫌なんだろう。

 俺、何かしてしまったんだろうか。あまり覚えがない。


 それにしても、転生者ってたくさんいるんだな。

 この世界の人口は知らないが、少なくはないだろう。

 こうした立派な都市ができているなら、人口はかなり多いはずだ。

 「転生者の俺、もしかして超レアの逸材なんじゃね」と思い上がってた自分が恥ずかしい。

 まったく逸材じゃなかった。結構普通の人間だった。


 いやまぁ、普通ならそれでいいんだけどさ。

 せっかくの異世界転生なんだから、ちょっとくらい特別感欲しいじゃん?


 誰だよ、現代知識でらくらく異世界生活とか思ってたやつ。

 俺だよ。


 転生者って結構珍しいという認識だったんだが、その認識は改めなければいけないな。


「あの......」

「あのさ」


 俺の弱い言葉は、彼女の強い言葉に押し消される。

 言葉が被ってしまった。

 これは、気まずくなりそうだな。


「敬語、やめてくれない?

 なんか気持ち悪いんだよね。あなたに敬語は似合わないわ」


 気まずくなる心配などまったくいらず、彼女は被ってしまったことなんてお構いなしに話を続ける。

 俺にはしゃべらせないってか。


 というか、さっきまでの不機嫌な顔は俺の敬語が嫌だったからか。

 でも、初対面の人への敬語は大切だと思うんだよなぁ

 でもでも、気持ち悪いって言われたんだよなぁ


 てか、初対面の相手に、「気持ち悪い」ってどうなのよ。

 ちょっと傷つくんですけど。

 俺は、傷つきやすい男なのよ。

 すごくセンシティブな男なのですよ。

 ガラスのハートなんです。

 もう少し柔らかく言ってほしいものですな。


 いやそれより、敬語似合わないってなんだよ。

 敬語に、似合う似合わないなんてないだろ。


「わかったよ

 そういうことなら敬語はやめる」


 まぁしかし、敬語をやめてほしいというのならやめることにしよう。


 俺は、敬語をやめる宣言をする。

 すると彼女は、無表情で納得した。

 コクコクと頷いている。


 そうだ、さっきの質問の続きを。


「なぁ......」

「連れていきたい場所があるわ。ついてきなさい」


 また遮られた。

 もうこれ、意図的に遮ってるんじゃないか?

 そう思えるほどにかぶせてくる。

 そして自分の話を続ける。


 俺に話させるつもりはないのだろうか。

 黙っていろと言うことか?



 男らがいなくなってからしばらくたった。

 安全を確認した後、彼女を連れて大通りに出ることにしよう。


 相変わらず大通りにはたくさんの人がいる。

 俺は少し前まで、あんなところを歩いていたんだな。


 俺は人混みが苦手だ。

 まったく知らない人間が、四方八方にいるのだ。

 疲れてしまってしょうがない。

 人は、知らないことが一番怖いのだ。


 人込みに入るタイミングを見計らう。

 次々と他人が歩いてくる。

 大縄跳びを思い出すな。

 ただ、やったことはない。

 あれは一人でできない。

 最低二人はいる。


 大縄跳びとか云うやつは、縄跳びのくせに集団競技なのだ。

 縄跳びなんだから一人でやらせろよな。


 俺がタイミングを窺っていると、彼女がするするっと行ってしまった。

 彼女は大縄跳びが得意なのだろうか。

 俺もそれに続いて人混みに混ざる。


 俺も運動神経が悪いわけでは無いんだけどなぁ

 やったことの無いことはほとんど出来ない。

 まぁ逆を言うと、練習したことのあるものはできる。


 しかし、初めての事でも難なくこなしてしまう人はすごいと思う。

 ビギナーズラックというやつなのだろうか。

 俺はどうやらそれを持ち合わせてないらしい。


「......」


 俺は黙って彼女の後ろについていく。

 テクテクと犬みたいに。


「どうして黙っているの?

 何かしゃべりなさい」


 あっ、話してもいいのね。


 あれだけ話を遮ってきたんだ。

 話すなと言われているのかと思った。


 でも、急に話せと言われてもなぁ

 こいつ、もしかしてめんどくさい奴なのか。


「えっと......」


 俺は話せと言われて話せるほど、お喋りが上手では無い。

 困ったな。


 そうだ、さっきからしようと試みている質問をしよう。


「あのさ」

「あなたさ」


 なんなの、こいつ。

 また被ったんだけど。


 しかも、さっきのは彼女が意図的に被せてきたのではないかというタイミングだった。

 こいつ、どういうつもりなんだ。

 俺、遊ばれてるの?


 彼女はまた、自分の話を続ける。

 なんなんだこいつ。話を譲る気が全く無い。


「初めて見たとき、汚い人だなと思ったけど、

 近くでよく見ても汚いのね」


 言わなくてもいいことを、人の話を遮ってまで言ってくる。

 それも満面の笑みでだ。


 まったく、失礼なやつだな。


 彼女が笑ったのは初めてだ。

 俺が見たうちでは、だが。


 なぜそんな笑顔であんなことが言えるんだ?

 今までで一番のとびっきり笑顔でだぞ。



 まぁ、問題は会ってすぐの人間に汚いと言ったことだ。しかも笑顔で。

 俺が汚いのは本当なのだ。

 多分、いや、確実にこの通りで一番汚いだろう。

 しばらく家に帰っていないのだから仕方がない。


「これでも俺はきれい好きなんだぞ」


 その言葉を聞いた彼女は何も言わず、眉を寄せ、体の重心を俺から少し遠ざける。

 「こいつは何を言っているんだ」とでも言いたげな表情。

 言いたいのなら言って欲しい。

 言わないようにされているのは、本気で引かれてる感が出て精神的にダメージをおってしまう。

 俺のHPがゴリゴリ削られていく。


 お願い!何か言って!


 そんなどうでもいい話をしながら、「連れていきたい場所」とやらに向かう。


 あれ?俺、結局座れてなくね?

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