恋は甘酸っぱく前のめりで頑張って! ~他の女子からは見向きもされずにモテない不器用彼氏がカワイイんですけど!~
プレゼントをそっけなく渡されて、言われた言葉が「これ、クリスマスだから」だけ。
不器用にも程がある彼が私にくれたプレゼントは、きっと頑張ったんだろう、ちょっと高めの、最近人気のパワーストーンをあしらったネックレス。
私の誕生石でもある青金石とも、瑠璃とも、ラピスラズリとも呼ばれている宝石がシルバーの飾りの中央に鎮座している。
名前などただの指標だ。正しいという名前がいくつもあるとそう思ってしまう。
でも、坊主頭の垢抜けない少年が、一見すると無縁そうなアクセサリー屋に一人で買い物しに来て、「プレゼント用に……」とか無愛想に言う姿を想像すると、この愛すべき恋人を可愛いと感じる。
本人に可愛いとか言ったら、絶対不機嫌な顔をするんだけど、それでも私からすればカワイイ。
仲が良かったわけじゃなかった。彼の周りには、一人二人程の決まった男子生徒だけが集まって話すだけだった。女子の気配なんて一つもない。
昔から知ってるわけじゃなかった。高校に入学して、入学説明会で初めて存在を知って、後々クラスメイトになった程度の付き合いだけ。
愛想が良かったわけじゃなかった。むしろ無愛想。
イケメンって訳でもなかった。どっちかというと純朴な人。
ただ、野球にひたすら打ち込む姿がカッコ良く見えて。真面目な姿がカッコ良くて。笑顔というのも、泣き顔も、怒ってる顔も、そういうのを全然見せなかったから気になって。そうやって、なんかずっと気になって、気になってから一年経って、追いかける自分のこの気持ちが恋なんじゃないかということに気付いて、私から告白して、意外そうな顔をされてから意外にオッケーをもらって、めでたく付き合い始めてから初めてのクリスマス。
『あのさ、俺、付き合うとかそういうのがイマイチわからないんだが……。お前に迷惑かけるかもしれないが……いいのか?俺なんかで』
『いいのか?じゃなくて、君が良いの。君じゃないとダメなの』
『お前は……その…………可愛い……というか、綺麗だし、その、俺には勿体無いというか……』
『またそんな風に言う。なんでそうなっちゃうかなぁ……。私は好きっていう気持ちを変えるつもりもないし、変えられるつもりもない。自分の身が勿体無いとかそういうのも全然思ってないわ。だって、好きだもん』
『それじゃあその、…………こんな俺だけど……よろしく頼む』
『うん!』
好きとか嫌いとか、そういう感情もわかるし、これが愛かと訊かれたらきっと愛だと答えられるくらいの気持ちは持ってるけど、付き合うってことがどういうことか、イマイチ実感もわかないし、どうすればいいかも二人手探りだからもどかしい感じもするけど。
それでも、彼の方から誘ってくれた今日の夕ご飯。
高校生で背伸びなんてできない二人だから、リーズナブルなファミレスで、それっぽくご飯を食べる。
イヴということもあって混んでるけど、予約で席を取っていたらしく、すんなりと入れた。
『偉いぞ彼氏!ポイントアップだ彼氏!』とか思ってるけど口には出さずに、ただ笑ってしまう。
「なぁ……」
「なに?改まって」
武骨なタイプというか、ストイックな人というか、お世辞にも人づきあいがうまい人ではない彼が、いつものように調子がイマイチわからない声で私に問いかけてくる。
街角のイルミネーションを一緒に眺めているときに、ゆっくりと。
「毎回思うんだが……、俺といてホントに楽しいか?」
不安なのか、窺い見るように私の顔を見てくる。
「んー……。じゃあ質問を質問で返して悪いけど、君は私といて楽しい?……というか、好き?私のこと」
意地悪なのかもしれないけど、そう返してみた。
返す言葉なんていくらでもあるだろう。ここで「いいえ」と言われてもちょっと困るけど、ちょっとだけしか困らない。なんとなくそれを予想も出来てしまうから。
「…………楽しいとか、好きとかはよくわからんが、…………嫌いじゃない。落ち着く。…………いや、そうじゃなくて、俺が訊いている」
「楽しいよ、私は。君は会う度に、一緒に過ごす時間が蓄積される度に新しい君を見せてくれるから、楽しいよ」
「俺は……そんなイケメンとかでは無いぞ?今まで野球しかやってこなかったし、会話とかもそうそう上手くない。女子にモテたことも無いし、告白してきたのもお前が初めてだ……」
「だから、不安なのかなぁ……。私も、君も。…………大丈夫だよ、私は。この短い時間だけじゃ足りない。もっと一緒に居れたら……そう思えるわ」
だから好きってことなんだろう。
好きじゃなければ、そうは思わない。
『ありがとう』
次の一言は二人重なって。
一緒に過ごす時間が増えれば、タイミングとか生活パターンとかが似てくるとは言うけれど、このタイミングはやっぱり少し笑える。笑えるというよりか、微笑ましい。
彼もまた、照れてるのか恥ずかしいのか、少し視線を私から逸らしている。
カワイイ。
だから私は―――。
そっとカバンから取り出した物を、彼の首に掛けた。
「製作期間一週間ちょい。期末テストの勉強半分捨てて作ってました」
笑って言って、少し照れる。
これのおかげで、一部の教科がいつもより悪かったけど、許容範囲だ。
自分で言うのもなんだけど、市販品と比べても遜色はないだろう。
「なぁ……、俺さ、今素直に、お前に『もっと一緒に居れたら』って言われて、すぐ『ありがとう』って言えたんだ。嬉しいって……思った」
私は、マフラーに手を当てている彼氏を見ているだけ。聴いているだけ。
「それってさ、……よくわかんないが、好き……ってことでいいんだよな?」
相変わらず不器用な言葉で、私に好意を伝えてくれる彼は、嬉しそうに照れ笑いして、俯いて、私の目を覗き見てくる。
「私もよくわからないけど……。私は、私だったらそれを、好きっていうかな」
今度はマフラーではなく、自分の腕を。
彼の日に焼けている皮膚の境目に伸ばして、マフラーを掛けるように絡めた。
「だから、私達多分。……私が勘違いの痛い子じゃないなら…………」
彼の呼気が頭に当たる距離まで近づいて。
「相思相愛だと思うんだ」
大胆だ、私。
クリスマスのせいだ、私は。
私はクリスマスに踊らされて、ここまで大胆になれる。
「だから…………女に恥、かかせないでね……?」
重なる瞬間、それだけを言って、初めて彼とキスをした。
恥ずかしくて顔が熱くって、素面に戻ったらウワーッてなりそうだけど、今だけはそれでよかった。
それだけでよかった。
「後悔してる。…………先、訊く前に気付いて、俺から言えば良かった。……申し訳ない」
短くても長かったキスの後、私の少し不満げな言葉に謝って、でも私は笑っていて。
照れ笑い、言った。
「許してあげる。……だから…………」
ゆっくりと、これから知っていければいい。
歩調を合わせて、気持ちを確認し合って、不器用なりにも少しずつ手探りで。
イルミネーションをバックに、私の想いを察してくれた彼が私にキスをくれた。
昔書いた小説を、少しだけリメイクしてみました。
もう少しでクリスマスなので。
読んで下さった皆様に、よいクリスマスを!
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