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第2話 チュートリアルは可愛い受付嬢とともに

道というのは2つの方向がある。行く道と戻る道だ。どちらが街の方向なのか全く分からないままカンで15分も歩いたころだろうか。


カラカラカラ、パカパカパカ………

というような音が聞こえてきてすぐに道の角から姿を現したのは明るい水色をした大きなロバ(?)に引かれた荷車だ。ロバの上には中年男性がまたがっていて、荷車には麻袋がいくつも積まれている。


俺を見た中年男性は帽子を軽く持ち上げると。


「やあやあ、ごきげんよう。旅人さんかね? 今日もいい天気ですな」

「あ、はい。ごきげんよう」


中年男性は人のいい笑顔を見せてから、そのまま俺の横を通り過ぎて………ちょっと待ったー!


「すみません、待ってください! ちょっと聞きたいことがあるんです!!」


慌てて振り返って色々と聞こうとした、その時だ。

木立の隙間からロバと中年男性の前にピンクのシカ?が飛びだしてきた。ロバがヒヒィンと嘶きをあげてロバと台車は急停止し、それに驚いたシカはギャーと叫び、跳ねるようにシカは木立の中に飛び戻っていった。

道路の野生動物飛びだし注意案件だ。

さっきから動物の色がおかしいな………


驚いて急停止したことで荷車から麻袋がいくつか転がり落ちた。しかもいくつか弾みで破れたらしい。中のものもザバァと道いっぱいに勢いよく転がり出した。大豆に似てる乾いた豆だ。中年男性が慌ててロバをとめて豆を拾い出す。俺もそこに駆け寄った。


「手伝います」

「ありがとう助かるよ」


豆を拾いながらまず何を聞こうか考える。

突然のことでまだ頭が真っ白だ。この世界の名前? いや聞いたらおかしい人だと思われそうだ。無難な内容からいこう。手で豆をすくって無事な袋の中に入れながらなるべくさりげなく聞いてみる。


「俺、このあたり初めてで迷子になったんです。近い街の方向ってどっちですか?」


中年男性は街に戻る途中のようだ。街までそんな距離もないようだったが厚意で荷車の後ろに乗せてくれることになった。豆を拾って良かった。


道中、中年男性と話す。否、中年男性の話を聞く。中年男性は自身についてのおしゃべり好きだったようで、俺の素性の詮索はされなかったけどひたすら話に相槌をうつ羽目になった。そうなんですね!、なるほど、知りませんでした!、凄いですね、大変でしたね。こういった感じだ。


中年男性は名前をタカキといって卸売業をしているらしい。隣町や更に遠い港町、季節によっては山奥まで必要物資を買い付けて街の商店に降ろしているそうだ。(そうなんですね)

街には目に入れても痛くない可愛い一人娘がいて、街の案内所で働いていてみんなからモテモテらしい。(そうですか)

奥様は五年ほど前に悪性腫瘍でお亡くなりになられているとか。(大変でしたね)


今更だが普通に日本語で会話が出来ている。動物の色はおかしいが今のところ化け物に喰われるような酷いインパクトはない。もしかしてここはタダの日本の田舎なのだろうか………


荷車に揺られて2時間ほどで街が見えてきた。小さな街だとタカキさんからは聞いていたが石造りと木造のハイブリッドのような少し古そうな建物がたくさん並んでいてけっこう発展しているように見える。


タカキさんによると何か分からないことがあると案内所にいけばいいらしい。分からないことだらけだし、死んだから回復したとはいえ何日も飲まず食わずだ。食事と寝る場所にありつきたい。


ということでタカキさんには案内所まで送ってもらった。案内所も板張りの木造の平屋だが綺麗に白くペイントされている。案内所に入ってすぐに『ごじゆうに どうぞ』という文字と共に瓶に入った水とグラスがあった。やはり日本語のひらがなで書いているなと思った次の瞬間にはグラスを掴んでいた。ただの水なのに喉が乾いていたからとても旨い。生き返ってから半日ぶりの水をがぶ飲みしていると──


「はじめまして。困った父を助けてくれたとお聞きしました。ありがとうございます」


奥から高校生くらいの女の子が出てきた。栗色の髪をスッキリとまとめあげていてかっちりとした服を着ている。恥ずかしくなって勢いよく持ち上げていたグラスをそっと『しようずみは こちら』と書かれている所に置いた。


「はじめまして。いえいえ、タカキさんにはこちらこそ親切にしてもらっていて有り難いです。俺はすこし荷物を拾っただけなんで………」


どうせ親の欲目だと娘自慢を聞き流していたけれどふつうに可愛い。美少女という感じでこれは親なら自慢するわ~という気持ちになる。


「私はタカキ・リナです。この街は初めてだと聞いています。この地方ではタカキはよくある名なので良ければリナと呼んでください」

「俺は藤川フジカワ 生衛セイです。こっちもセイって呼んで貰えると嬉しいな」


タカキ、苗字だった。高木かな?高城かな?

名前かと思っていたけど、そうだよな普通初対面だと苗字を伝えるよな………


「宜しくお願いします、セイさん」


うっ、美少女パワーが眩しいっ………

この世界では別に俺は変わった名前じゃないようで、特にリアクションはされなかった。俺としては特にキラキラネームではないとは思うのだが漢字が生衛なので初対面の人達には『イクエ』と呼ばれてきた。あとよくあるのが『衛いらなくね?』というツッコミだ。俺もそう思う。ただそれは親に言ってくれ。

そういうことなので俺は初対面の人に基本的に漢字を紹介しない。面倒なので。



『やどや とおぼえ』


目の前には民宿な見た目の宿屋があった。

つまり建物というのが大きな一軒家くらいの見た目でしかないということだ。泊まれるところを聞いて案内されたのがここだった。泊まれるところはもう一つあるがなかなかにリッチだと聞いている。


さりげなく後ろポケットから紙幣を取り出して「今の手持ちこれしかないんだけど、泊まれるところはあるかな?」(リナちゃんとは話しているうちに敬語が抜けてしまった。自分より年下だし本人もだけた口調のほうが気兼ねなくて良いらしい)と聞いて、それならここだと案内されたのでつまりリッチな宿はこの所持金だと厳しいということになる。


問題は。


「250しかない………」


500だったはずの紙幣がいつの間にか100札2枚と50札1枚に変わっている。無くしたのなら増えている50札1枚がおかしい。俺の見間違いだったのだろうか。何度も確認したわけじゃないから見落としていた可能性もある。


宿は1泊25ギンだった。

通過の単位はギンらしい。銀かな?

やったー、10日泊まれる! ということにはならない。食事を考えると1週間持たなさそうだ。


「仕事どうしようかな………」


案内所では仕事の斡旋もしているようだった。案内所の掲示板に募集の紙がいくつか貼られていたのをさっき見たからだ。軽作業とかスキルがいらない仕事があれば生きていけるかもしれない。といっても仕事のことを考えるとちょっとヘコむ。


就職しようと面接や説明会を行脚してる大学四年生であることを思い出してしまったからだ。このごろは飲食店店員のバイトも休んで頑張っていたのに。

卒論………はまだ先の話だが、このまま戻れないと前期の必修単位落として留年するのでは? 奨学金のピンチだ。泣きたい。そもそも帰れるのだろうか。


腹減ったなぁ………。


頭を切り替えて食事をしに行く事にした。

今はとても酒が飲みたい気分だ。



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