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第1話 開始と同時で操作方法も目的にも分からず無駄に死ぬのはゲーム初心者あるある


自分が食べられているところって見た事ありますか? 俺は人生で初めて見ました。以上です。


「って現実逃避してる場合じゃねー!!」


いない第三者に語りかけている場合ではなかった。俺の目の前には『自分』の死体が転がっている。その骨を砕き、肉を割いてお食事中だった筋骨隆々でクマくらい大きい犬──いや?犬か?これはイヌっぽいクマか?──の化け物が俺を見て分かりやすいくらい呆然としている。殺された俺の腹から口をあげたことでマズルは血まみれで口からだらりとはみ出しているのは小腸かな………。俺を警戒した化け物が低く唸る。ゴアがダメでホラー映画のグロシーンで口の中が酸っぱくなるタイプの俺の口の中は今日に限ってはカラカラに乾いていた。

ガクガク震える膝をがむしゃらに動かして後退する。すっかり姿が見えなくなっても化け物は俺を追って来なかった。


森の中。

あれから1時間くらいたっただろうか。

まだ不安であたりをキョロキョロと見るのをやめられないが、ようやく落ち着いてきた。正しくは周りに何も無くて落ち着くしかなかった。

ちょうどいい大きさの倒木に腰掛けて身体のチェックをする。逃げる時に小枝に引っ掛けた小さな擦り傷以外の大きな外傷はない。服のありとあらゆるポケットを探ってみたところスマホも家の鍵も財布もなくて、変わりに尻ポケットに見たことのない柄の、数字で100と書かれている紙幣が5枚入っていた。外国の紙幣だろうか。


というか。

「なんだこの服………誰が着せたんだ………」


ジャケットとシャツはなくなっていて買った記憶も母親から押し付けられた記憶もないゆったりした上着を着ている。世の中の母親は子供に地味な、黒とか灰色とか白い、だいたいパーカーのついてる服を着せたがるものだと思う。俺の家はそうだった。あとは革靴がサンダルみたいなものに変わっている。これも俺の記憶にはない。それ以外は自分の記憶にある黒い細身のパンツのままだ。2セットで1万円の。どうせバレないだろうと履いてきた柄物の靴下と青いトランクス。

俺ははっきりしない記憶を思い出そうと念じながら目を閉じた。



「スーツ暑………」

企業の合同説明会帰りの俺はアスファルトの道を歩いていた。いい天気にいい陽気で汗ばんだ俺はネクタイを緩めて空を見上げた。


………………。

ここから記憶がはっきりしない。

目の前が眩しくなって、頭が痛くなったような気がする。


そして、そうだ。

気がついたら開けた森のような場所にいた。周りより少し高台になっていてちょっとした岩があって、そこからは沢山の木々が見えていて、それで俺はここが森だと思った訳だ。

突然のことに数分間ぼーっとしてまわりの景色を眺めていた気がする。そこに物音がして、俺はそちらを振り返った。いたのは、イヌ(クマ?)。足に噛みつかれ振り回されて地面に身体が叩きつけられて──


そうして俺は襲われて死に、目の前が真っ白になって、そして次の瞬間には自分が食われるのを見ていたということだ。


(悪い夢だ、そうに違いない)


正直見知らぬところにいるだけなら誘拐されて捨てられたんだろうなと予想しただろう。それか知らないうちに遭難したかだ。化け物に襲われるのもまだ自分の知らない肉食獣に襲われたんだろうと理由をつけられた。だけど。


目を開く。

(生き返ってるんだよなぁ………)


悲しいことに、頬をつねっても木の幹に頭を打ち付けても悪い夢から目が冷めなかった。どうしようもなくて俺は歩き出した。なぜなら何か食べ物を探さないと死んでしまうからだ。


日が落ちて、日が登って、日が落ちて。

そして、日がサンサンと照っている。


「喉が乾いた………」

意識が朦朧とする。

食料どころか、俺は川を見つけられなかったし、雨も降らなかった。森の中で自分がどこにいるかもわからい。ずっと代わり映えのしない景色だけどこまでも続いていた。

泥を煮詰めたような水たまりに口をつけるのをためって通り過ぎてから1日半過ぎていた。今更後悔してもその水たまりすら見つからない。喉が乾いた。


頭が割れるように傷んで吐き気がして。

ふかふかの落ち葉の上に俺は倒れたのだった。

目の前が真っ白になって──



こうして俺は2度目の死を迎えた。



キラキラした眩しさに目が眩んで目を閉じた。次に目を開くと目の前に頭蓋骨があった。空っぽの眼窩と目があって俺は飛び起きる。


「ぎゃあ! 人骨! ………? へ? ここは?」


喉の乾きが消えていて体調も回復している。お腹も減っていない。目の前には人骨が転がっていて、いつの間にか自分は開けた場所にいるようだ。鬱蒼とした森がよく見える。少し大きめの岩もあって──あれ?

つまり、ここは最初の場所だ。

ということは、この骨は。


「俺じゃん」

綺麗に化け物に食べられたようだ。

逆に肉片がほとんど残ってなくて助かったのかもしれない。自分のモツなんて何度も見たいものじゃないからだ。


死ぬとこの場所に戻るのか………

さっきまであれだけ朦朧として思考回路が死んでいたのに今は体調がいい。とはいえ食料がなければまた死んでしまうだろうけど。


悪夢だ。どうすればいいだろう。

同じ場所で復活するなんて、まるでゲームみたいだ。死ぬとリスポーン地点にリスポーンされるゲーム。ゲームなら普通は死体は残らないけど。


ゲームみたいだ? もしかしてこれはゲームなのだろうか。むかしゲーム世界に入ってしまう映画を見たことがある。卵形のような機会にのってゲーム世界にダイブするのだ。戻るにはゲームをクリアする必要があって、主人公は──


まさかな、まさかな。


前回の反省を生かして闇雲に森を歩き回るのではなく太陽の方向を見ながらなるべく一方向に進むことにする。東西南北どちらかに歩き続ければいつかはどこかにたどり着けると思いたい。2回目の時点で日の出と日が沈む地点は大まかにわかっている。ここが北半球ならその真ん中が南のはずだ。


ということを考えながらまずは北から攻めることにした。方位磁石も腕時計もないので完全にまっすぐに進んでいるわけじゃないし崖は遠回りしなくてはいけないからだいたい北方向が正しい。

4回のうちに1回くらいは正解を引ければいいなと考えて。すでに自分がリスポーンできることを前提に考えているこどに気づいた。また生き返れるか分からない、ゲーム的には残機があるかどうか分からない状態でそんなことを考え始めたのは現実逃避が激しい。そもそも死ぬのは苦しいから死にたくない。


そうしてだいたい北を目指して、体感3時間くらいで。


「やったー!! 道だー!!」


俺は誰もいない道で小躍りした。

未舗装だけど車が通れるくらい踏み固められていて雑草や草木が生えてない場所についた。よかった、人類が滅亡していて自分しかいないとかだとどうしようかと思っていた。サバイバル能力は俺にはない。



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