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砂の花  作者: 高千穂ゆずる
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色とりどりの 第14話

 静かな部屋の中でときどき聞こえるのは、フォークが皿にあたる小さな金属音とワイングラスをテーブルへ戻す際のわずかな物音ぐらいだった。

 レナは大ぶりに切り分けた白身魚を口に運びながら、対面に座るルイスを見た。

 眉間に深いしわを寄せ、右手で持ったフォークでしきりに魚の身をほぐしている。そんなに細かくほぐしてしまうとフォークではなく、スプーンじゃないと食べられないのではないか。

 ローランからもらったラインガウの白ワインにも手をつけていない。

 小さなボストンバッグをひとつほど持って戻ってきたルイスは、白ワインについての薀蓄をローランに聞かされたままレナへ話す程度には口を開いていた。

 しかし持ち帰った資料を見返していくうちに次第に無口になり、温め直した食事を前にした時にはすでに今のような渋面が張り付いてしまっていた。

 ルイスはヒューゴの遺棄現場が気になって仕方なかった。そのことがきっかけで、もう一度これまでの遺体発見現場を確認してみた。

 一人目のジークリット・アルトナー、二人目のズーザン・ハイネン、三人目のギーゼラ・ベレント、四人目のテクラ・ショーダー――そしてヒューゴ・ピエラ。

 被害者たちの発見現場はそれぞれ違うし共通点もなかった。

 しかも、鑑識のゲルト・ガイスラーから犯行に使われた凶器が途中から変わった可能性があると聞かされたときは驚いた。

 凶器が変わったとされるのは、ヒューゴ・ピエラだ――。

 そもそも犯人は複数でそれぞれが単独犯かもしれない。そうだとしても被害者がレナに関係し過ぎている点が気にかかる。

 やはり同一犯か、と眉間のしわを深くさせるルイスに、

「ちょっと」とレナが声をかけた。

 しかしルイスの手元は忙しなく魚の身をほぐしているだけで、レナの呼びかけにはまったく反応しない。

「ねぇ、ちょっと。無視するのやめてくれる」

「……え? あ、すまない。考え事をしていたから」

「なんか考えてるんだろうなってことは見てればわかるけど。それ、どうやってフォークで食べるのか、気になってしょうがないんだけど」

 ルイスの皿を指差しながら、呆れたようにレナは小さく笑った。

 レナの視線と指先にある自分の皿を改めて見ると、細切れになった魚の身がクリームソースと混ざり合って山になり、お世辞にも美味そうには見えなかった。

「悪いことをした」

 ルイスが長い息を吐く。

「事件のことが頭から離れないのはわかるけど、食事だけはちゃんと摂らなきゃ。脳を働かせるにも十分な栄養は必要なんだから。栄養と休養はどっちが欠けても物事はうまくいかないものよ」

 うなだれたルイスは小さく頷いた。

 レナが言うことはいつももっともで頭が痛い。

 寝不足のせいで思考が空回りしている自覚はあるし、全身を覆う虚脱感はいつまでも拭えない。

 噛み合うタイミングがずれているだけの歯車はそれでも常に動いているのだから、これさえうまく嵌ってしまえばきっと――だが、答えに行きつくこともなく堂々巡りの思考でしかなかった。

「心配かけてすまない」

 疲れた声でルイスが言う。

 整髪剤で整っていた金髪がところどころ乱れて落ちている。

 帰りが予定よりも遅くなったからとシャワーを浴びるより先に食事を摂ると言ったルイスの頭を、レナはやさしく撫でた。

「そもそもアンタに無理させてるのはあたしのせいみたいなものだもんね。謝んないでよ」

「レナは悪くない。俺が不甲斐ないだけなんだ」

「またそうやって卑屈になるの、悪いクセだよ」

 手のひらに感じる少しごわついた髪を無造作に掴むと、レナはわしゃわしゃと乱暴にかき回した。

 生真面目すぎるルイスはすぐにひとりで抱え込み、勝手に悩んで落ち込んだ挙句に不貞腐れたりと忙しい。

 レナは、ふふふと笑いを零しながら自分が乱した髪を今度は手櫛で整えてやる。

「それ、ぜんぶ食べてしまってね。それからシャワーを浴びるの。ルイスの大好きな膝枕をしてあげるから。考え事はそのときにすれば?」

 おねえちゃんの命令です、と子ども扱いを隠そうともせずに付け加えた。


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