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賢者と聖女と勇者な彼 幕間

「また、人から食べ物を貰って。腐っていたら、どうするのです」


 賢者は朝から勇者に小言をいう。


 人好きのする彼は、よく物を貰うが、中には悪意が混じったようなものもある。


「あたったら、聖女に宝玉で治してもらえばいいじゃないか。なあ?」

 群青の瞳が朝の光を受けて、きらりと光る。


「勇者のお役に立つことでしたら」

 聖女は満面の笑みを浮かべた。

 心洗われるような光景だが、賢者の心は晴れない。


 なぜなら。

「宝玉は魔神から受けたダメージしか回復しませんよ」


「え、何で?」

「そうでしたかしら」

 この二人は女神の言葉を聞いていなかったのか。


 賢者はジロリと勇者と聖女を見た。


 勇者はいつものへらへらした顔のままだが、聖女はさすがに恐縮した様子をみせる。


(わたくし)、あまりに感激をしてしまいまして、少し上の空だったかもしれません」

 聖女はその顔に、必殺聖女スマイルを浮かべた。


 美しい銀色の髪が揺れる。空を写したような水色の瞳。優しげに微笑む姿は、聖絵画のごとし。


 人類の99.974%が、その笑顔を見れば、多くの憂鬱や不満など吹っ飛ぶと言われる代物だ。


 だが、賢者は、残りの0.026%側の人間に()()()


 女神に召喚されるまでは、賢者も例外に洩れず、たまにしか会わないこともあり、聖女らしい穏やかな方だと思っていた。


 旅が始まってからは、その善良が過ぎる言動に、振り回されて辟易している。


 今、三人だけで旅をしているのも、原因は聖女だ。


 心優しい彼女は魔人討伐に恐れをなす供回りを、彼らの言うままに家に帰してやった。

 各国から集められた軍資金から、当座の生活費まで与えて。


 そして、勇者は、ナイスガイの勇者は、まさにナイスな性格をしていた。


 聖女と違って、純粋無垢で疑いをもたないという訳ではない。


 疑っても、ま、いいか、で流してしまう。


 神々から与えられたさまざまな祝福と力が、それを許してくれるのだ。


 神殿のから遣わされた聖女の身の回りをする最後の女神官がいなくなり、勇者を抜いては、帝国一と言われた騎士が去る。


 勇者も聖女も彼らを引き止めなかった。


 二人が引き止めたら、彼らは今も同行していたかもしれない。


「聖女の癒しの力を、ご自身や勇者様、賢者様でなく、私にばかりに使われるのは」


 女神官は、自分が足手纏いと思って戦列を去った。


 勇者は、傷の回復がとてつもなく早いから、優先順位が後回しにされている。


 賢者もだいたいが後方にいるし、魔法耐性は高い。


 聖女にいたっては、絶対防御などというとんでもない、加護を持っている。

 伝説の魔の帝王か勇者くらいしか、打ち破れない防御力だ。



 その勇者といえば。


「勇者はお強いから」

 騎士が苦い笑いを洩らして、賢者に言った言葉。


 確かに勇者は強い。他の助けなど邪魔ではないかと思える。


 だが、ことさら生活方面では無能の一言。

 賢者だとて、研究ざんまいの日々を送っていた。

 世知にたけている訳ではないと思うが、もとは平民。身の回りくらいは自分でできる。


 しかし、できるとは言ってもだ。

 女性の髪を編み込むスキルなど必要はなかった。


 聖女は身の回りのことはほとんどできない。

 勇者は他人の世話など出来ない。


 必然的に、細々とした、生活方面は、出来てしまう賢者の担当になる。


「聖女、胸元を留める紐くらい自分で、いや、縦結びになってる。こっちへ来なさい」


「勇者。焼魚を手で持って食いちぎるのはやめなさい。骨を取るのがめんどくさい?いいですか、魚はこう、真ん中にナイフを入れてですね」


 聖女の紐を結び、勇者に魚の食べ方を教える。



「ほんと、賢者は何でも知っているし、できるよな」


「助かりますわ。一家に一人欲しい方ですわ」


 賢者は、万能お手伝いさんではない。


 絶大な魔力を持ち、膨大な知識で、世を守り導く。それが賢者なのだ。


「あ、賢者、魚をもっと焼いて」


「三時のおやつはなんですの?」


 賢者は聖女と勇者を睨んだ。


 しかし、二人はニコニコと笑ってこちらをみているだけ。


 ……最強と天然なんて大っ嫌いだ。

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