こんな感じ
意識を集中し、目の前にある媒体に両手を添えるようにするパティ。
ほんのりと両手に青白い光が集まり、それは次第にかざした中央へと向かう。
……ただひとつ気になるのは、力が集約して光っているのが花瓶ってことか。
何とも微妙な空気を出しているが、結果を変える要因にはならないらしい。
本当に不思議でよく分からない世界だとわりと本気で思える俺に、瞳を閉じながら力を込めていた彼女の口が開く。
「……視えてきたわ。
……これは……なるほど……」
「おぉっ! トーヤ君の運勢がいま明らかにっ!」
「……楽しそうだな、ラーラさんは」
「人生は楽しく過ごしてこそなのよ!」
「その気持ちは理解できるが、いい結果が出るとは限らないんじゃないか?」
「……ふぅ」
力を鎮めるように落ち着かせていくパティ。
一息ついて彼女は言葉にした。
「……トーヤさんに訪れるだろう、わずかな未来が視えました」
「その"わずか"という言葉が若干の不安感をあおるんだが……」
「ま、まさか、トーヤ君の未来には私とは違う女の影がッ!?」
なんでそんなに驚愕しながら話すのか、突っ込むと面倒になるな。
俺と一緒にいるよりも、料理を自分で作れるようになった方が楽しいと思うが。
「それでそれで!?
何が視えたのパティちゃん!?」
「……そうね……」
なんだ?
そんなに言いづらい結果が出たのか?
ものすごく不安になるんだが……。
そう思える俺も、占いにはあまり関わらない方がいいのかもしれないな。
「……トーヤさんに視えたのは、数名の女性の姿よ。
残念ながらシルエットのみだから、どんな人かまではわからない。
でも確実に言えることは、あなたに"女難の相"がはっきりと出たことなの」
「…………」
あまりの衝撃に凍りつく。
その言葉すら理解できない自分がいる。
数名の女性の姿?
女難の相?
なんだ?
何を言ってるんだ、パティさん。
意味がまるでわからない。
必死に考えながらも言葉にできたのは、たったの一言だった。
「……まじか……」
「……みたいね。
まぁ、私の占いは悪いことばかりが起こるとは限らないわ。
女難と言っても色々あるし、あなた自身がそう思ってるだけで周りから見ると違う印象を受けたりするかもしれないし、その逆もあると思うわ」
幸先が一気に悪くなる印象を強く受ける。
これは町を経由して迷宮都市に向かうな、という意味だろうか。
それとも回避しようとしたところで、結局のところ巡り合せるものなのか?
不穏な空気が漂う中、ただひとり元気な女性は声をあげた。
「私のトーヤ君にちょっかいだそうだなんて、どこの女どもよッ!?」
「……こんな感じだと思うわ……」
「……なるほど、よく分かった……。
これは当たると判断した方がいいだろうな……。
ちなみにだが、的中率を聞いてもいいだろうか?」
それを聞いたところで何にもならないが、気休め程度にはなるかもしれない。
"占術"スキルとはいってもそれほど高くはないはずだ。
恐らくは7、8割といったところじゃないだろうか。
「私の的中率は、残念ながら98%なの……。
それほど多くを占ってきてるわけではないけど、ほぼ当たってるわね」
「……まじか……」
「……えぇ……」
「私のトーヤ君は絶対に渡さないんだからッ!」
こぶしを握り締めて、わけの分からないことを強く言葉にする女性を白い目で見つめながら、俺には安寧の日々はもう来ないのかもしれないと思わずにはいられなかった。