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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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俺は思うよ

 占いという言葉から水晶玉でも使うのかと思っていたが、そうではないらしい。

 彼女が用意したのは、テーブルに置かれていた花瓶だ。


 そんなものを何に使うんだろうか。

 そう考えていると、ラーラが教えてくれた。


「パティちゃんの占いに使う媒体は、どんなものでもいいらしいの。

 それこそ落ちている石ころからでも結果が見えるすごい占いなのよね。

 "占術"スキル持ちだから、その気になれば本職にもなれるんだけど……」


 ちらりと視線をパティへ向けるも、彼女は頭を横に小さく振りながら答えた。

 そのどことなく悲しさを含んだ瞳が気になるが、彼女の言葉で理解できた。


「占いで商売をする気はないわ。

 人様の行く末すら見えかねない力を、どうして使い続けられるのかしらね。

 占いなんて、当たろうとも当たらなくとも本人の気持ち次第で変えられる。

 その程度の曖昧で不確かなもので十分だと、私は常日頃から思っているの」

「……そうだな。

 俺もパティさんの考えが正しいと思うよ。

 もしそんなことまで分かるのなら、それはもう未来視だ。

 そうなれば占いに依存した生活をする人が出てくる。

 俺にはそれが幸せな生き方だとはとても思えない」


 人は弱い。

 心も、体も。


 自分が思っている以上にもろく、時としてすぐに心を崩壊させてしまう。

 強い武器を使わなくとも、人はたやすく壊れるんだ。

 そういった強大な力を人は持っている。


 きっとこの世界の住人には、"言葉が力になる"ことも知らないんだろう。

 たったの一言で人を死に追いやってしまうほど強力なものだということも。


 人は支えあい、助け合いながら今を生きる。

 ひとりでできないこともふたりならば。それ以上ならもっと。

 より良い未来を創ることだって、人にはできるはずなんだ。


 そこに"占術"なんて強力なユニークスキルがあると、どうしても頼りたくなる。

 そういった人が確かにいる中で、それを生活の糧としては続けたくないという彼女の想いは理解できるし、正しいことだと俺には思えた。


 未来が見える力は確かに強力で便利だ。

 しかしそれに頼り切ってしまえば、人は簡単に壊れてしまうんだろう。

 それだけこの生きている場所が不安に思えるからこそ頼るのかもしれないな。


「……信じるのも信じないのも人それぞれではあるんだけど、パティちゃんはそういうのが嫌で占い師にならなかったのよね。

 人は弱くてもろいから、その先を見ようと強く思ってしまうものなのかしら。

 それに依存しては意味がないんだけど、どうにも離れられない人がいるのよね」

「だからこそ、人は強くなる必要があるんだ。

 体を鍛え、心を強く保ち、技術を高め、時には魔法を修める。

 何もいちばんになる必要なんてない。

 ただ自分と、大切な誰かを護れる強さがあれば十分だ。

 少しでも幸せな暮らしをするために。

 そのために自分を鍛えることが必要なんだと、俺は思うよ」


 覇気のある声で言葉にする。

 それを真剣な眼差しで見つめるふたり。

 いや、フラヴィも子供なりに俺を見上げながら聞き続けていた。


 言葉がしっかりとしたものとして伝わるのならこれも立派な教育になるのかもしれないが、さすがに魔物と呼ばれるこの子には難しいんだろうな。


 それでも、ほんの少しでも想いが伝わればいい。

 たとえ欠片だろうと、きっとこの子にとっては大切なことになるはずだ。


 俺は素直にそう思えた。

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