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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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想像していたよりも

 もどきではあるが、それなりに甘い香りのするバニラアイス。

 それは俺が想像していたよりも破壊力があったようだ。


 少なくとも、はじめて食べた人を凍りつかせるだけの効果を確実に見せた。



 現在は食事も終わり、パティが得意とするものを披露してもらう予定だ。

 固まり続ける彼女が解凍されてから、ではあるんだが。


「大丈夫か、パティさん」

「……え? あら、私ったらごめんなさいね。

 あまりにも衝撃的な美味しさで、思考が完全に凍っていたわ」

「……はぁ、なんて美味なのかしら、バニラアイスは」


 恍惚としながら天井を見上げて答えるラーラだが、まだまだ美味しさに欠ける。

 時間がかかろうと、バニラだけでもしっかりとしたのを作るべきだろうか。

 アイス以外にもあれはお菓子作りに欠かせないほど重要なものだし、何よりもこの世界にはない可能性が考えられる。


 そもそも寒さに弱い高温多湿を好む植物だと聞いたことがある。

 温度をある程度保てる場所でなければ育てるのも難しいんだろうな。


 一般的に使い方が発見されるまで待つのは現実的じゃないし、俺が生きているうちに食べられる保証すらない。

 かといって、バニラを諦めることは難しい。

 さてどうするかと悩んでいると、可愛らしい声が小さく部屋に響いた。


「……きゅぅぅ~……」


 ここにも瞳を閉じながら天井を見上げているのがいたか。

 なるべくアイスが溶けた液体を舌の上へ乗せるように木匙であげたが、思っていた以上に美味しかったのがよく理解できた。

 どうやらペンギンでもバニラは美味しく感じるらしい。


 フラヴィが気に入ったんなら、いっそ本格的に作ってみるか?

 試行錯誤は必要だから、どれだけかかるかも分からないが。

 俺自身、時々食べたくなるし、試してみるのも面白いだろうか。


「すみません、すっかり固まってしまって」

「いや、気に入ってもらえてるなら出した甲斐があったよ」


 これだけ喜んでもらえてるなら嬉しく思う。

 そんな中、難しい表情で考えているラーラはぽつりと呟いた。


「……氷を継ぎ足せば、長期保存できるようになるかしら……」

「そういえば、この世界には冷凍庫ってないんだな」

「言葉から想像するに、凍てつくほどのとても冷たい風を出す魔導具かしら?」

「まぁ、だいたいは合ってると思うよ。

 さすがに魔導具は俺の世界にはないんだけどな」


 使ってる人間も構造を知らないものばかりだし、魔導具と大差ないだろうな。

 そういった素晴らしい発見や発明品を作り上げた先駆者がたくさんいて、初めて俺の世界にある数々の便利な道具があることを今更ながら思い知らされた。


 世界を渡ることでそれを知るとは、なんだか皮肉な話ではあるが。


「……とても興味深いわ、トーヤ君の世界は。

 魔導具もなしにどうやって生活しているのかしら。

 たしかデンキってのを上手に力として使ってるのよね?」

「あぁ。

 俺の世界は科学文明が発達した世界とも言い換えられるからな。

 "科学"もこの世界の人には聞き慣れない言葉か」

「デンキを生み出す技術、なのかしら?」

「まぁ、間違いではないんだが……。

 あれはなんて言葉にすればいいんだろうな。

 ……事象や現象を解明していく分野、とでも言えばいいんだろうか」


 当たらずとも遠からずだと思える言葉を使ったが、専門家が聞けばこれも鼻で笑われそうだな。

 でも、それらをまったく知らない人に伝えることは、俺には難しい。

 物質を構成している元素だって解説したところで理解されないだろう。


 元素が発見されるのは17世紀だっただろうか?

 いや、科学文明よりも魔法という未知の力が世界に浸透している。

 恐らくはまったく別へと進む可能性の方が高いかもしれないな。


 思えば水も火も人間自身が出せるんだ。

 科学が必要とされない世界に向かっているんだろうか。

 "綺麗にすること"において、科学に勝る魔法が廃れる日が来るとも思えない。


 ある意味ではとても壮大な研究対象になりうるテーマだが、そんなことをしていればいつの間にか爺さんになるだろうことは目に見えている。

 帰還方法と、フラヴィを連れて行ける方法を探し出さなければならない。


「さて。それじゃあ準備が整ったみたいね」


 ラーラの楽しそうな声で、思考の海から現実に引き戻される。

 だが、どことなく俺もそう思っているのだろう。


 今から何が起こるのか、少しだけわくわくしてきた。

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