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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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手っ取り早い

 俺の話に耳を傾けながら食事を進める女性と、こちらを向いて聞き続ける女性。

 対照的にも思えるふたりに面白さを感じるが、類は友を呼ぶとも言うし彼女達も根幹では似通っているのかもしれないな。


「本当に美味しいです、トーヤさんのお料理は。

 お肉はもちろん、このおソースがとても特別に思えますね」

「まともなデミグラスは入っていないが、シャスールソース風に仕上げた。

 味見をした限りじゃそれなりに美味かったから、まぁそこそこいい料理だな」

「シャスールソースとは、どういったものなのですか?」

「鍋にバターとスライスしたシャンピニオンを加えて軽くソテーし、その中へみじん切りにしたエシャロットを加えて軽く火を通す。

 皮を剥き中の種を取り除いてサイコロ状にカットしたトマトを加えてさらにソテーして、これに白ワインを入れて水分が半分くらいになるまで煮詰める。

 即席デミグラスを加えて10分ほど煮込み、塩と胡椒で味を調えたものだ。

 正直なところコンソメが作れなかったからいまいち味がしっくりこないが、それでも十分美味いと言えるだろうな」

「古代呪文を詠唱してるような言葉がたくさんで、お姉さん目が回りそう……」


 何だよ、古代呪文を詠唱って。

 そんなものもあるのかよ……。


 彼女とは違い、パティだけは俺の説明に何かを納得したようだ。


「なるほど。

 手間隙はかかりますが、これだけ美味しいものができるのなら家に帰ったら試してみようかしら。

 コンソメはどのくらいのお時間をかければ美味しいものができるのですか?」

「作るには最低でも2時間は欲しいな。

 さすがに家庭料理のレベルは超えるから、無理して作らなくてもいいと思うが」


 コンソメもブイヨンも、この世界では固形で売られていない。

 バニラの時も思ったが、非常に残念でならない。

 あれを手軽に購入できる世界ってのは、俺が思っている以上に便利ですごい場所だったんだな。


「実は食べさせたい人が国元にいるの。

 できればこのお料理をご馳走してあげられたら嬉しいのだけれど」

「なら、あとでレシピを書くよ。

 他にも適当にコンソメやブイヨンを使った料理も書こうか?」

「それはとても嬉しいです。ぜひお願いしますね」

「……パティちゃん。

 もしかして、ジュリアちゃんに出すつもりなの?」

「ええ、そのつもりだけど?」


 パティの言葉に苦笑いをするラーラ。

 何が問題なのかはわからないが、何か影響を与えかねないことだけはわかった。

 ちらりとこちらを見るラーラにおおよそを察した俺は、先に話をした。


「俺は空人だ。

 だからこの料理は異世界のものになるんだよ」

「と、トーヤ君。パティちゃんやジュリアちゃんなら問題ないけど、そう簡単にそれを言葉にするのは良くないと、お姉さん思うな……」

「下手に説明するよりも、その方が手っ取り早いだろ?」

「それは……そうだけど……」


 まぁ、そう易々と言葉にしていいことじゃないのは分かっているつもりだ。

 それがどんな影響をもたらすのかも予測がつかない行動を取るべきじゃない。


 それでも彼女は恩人のひとりだ。

 フラヴィのことを学べたのは何よりも大きい。

 恐らくではあるが、図書館でも調べられない情報が含まれていたと思える。

 膝の上でまったりしてる子について、研究成果とも思える知識を惜しみなく話してもらえたんだから、俺には話さない理由を探す方が難しかったが。


「それに、恩人に黙っていることでもないだろ」

「……そんな素直なところも、トーヤ君の魅力なんだけれどね」


 しょうがないわねって顔をしながらこちらを見つめるラーラ。

 彼女の友人なら問題ないだろうと楽観的なことも思えたが、ここで黙っていること自体、俺はしたくなかったのかもしれないな。

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