冒険者
それにしても、仮想現実を連想させるような現実世界、か。
ダイブ型VRってのが開発されたら、こんな感じなんだろうか。
そんなことを思ってると、ローブを着た男性が話し始めた。
「ともあれ、まずは自己紹介をしましょうか。
私はエックハルトと言います。神官でありながら冒険者をしています」
「次は俺だな。フランツだ。剣士をやってる。
ディートが前線で、俺は前衛よりの中衛遊撃だな」
「ライナーです。僕は弓士として活動しています」
白い厚手のローブと胸部革鎧に、メイスとスモールシールドのエックハルト。
メイスで殴ることもするが、基本は魔法での攻撃と回復支援が主らしい。
金属軽鎧に片手剣とスモールシールドを持つ戦士フランツ。
速度優先で機動力を活かした戦い方をしているようだ。
胸部のみ軽鎧を纏い、弓と短剣で戦う弓士ライナー。
剣のような武器は苦手だが、集中力と弓の腕は相当なものだと仲間達は話した。
ディートリヒは、軽鎧に片手剣と少しだけ大きめのシールドを装備している。
腰にはダガーを付けているが、あまり使うことはないそうだ。
あれだけいい剣を持ってるんだ。
扱いが難しい短剣を使う必要もないだろうな。
彼らはバランスの取れたパーティーのようで、そこそこ活躍していると話した。
年はエックハルト22、フランツ21、ライナー20、ディートリヒ23歳。
ディートリヒがリーダーで、精鋭冒険者とギルドからは呼ばれているらしい。
年齢的にまだまだ若手ではあるものの、技術と依頼達成率に定評のある彼らは、ギルドから指名依頼を受けられるくらいの信頼と名声は持っていると話した。
冒険者はギルドからランクを付けられる。
これにより難易度の違う依頼を受けられるようになるそうだ。
ランクはFから始まり、Aまで上がる。
中には更に上のSまで上り詰める者もいるらしいが、そう呼ばれる者達のほとんどはその道を極めた達人で、並の冒険者では到達できない領域にいると言われる。
昇格はギルドが適正と判断すると直接本人に通達されるようだ。
どの町にいても伝えられるというシステムに首を傾げてしまうが、それも問題にはならないのだと知った。
冒険者はそれぞれギルドから発行されたカードを所有している。
そこにはこれまでの成績とも戦績とも言うべきものが記載されるらしい。
倒した魔物の名やその総数を一般的には見えないものとして記録され、報奨金や討伐料も計算して受け取ることができる。
ランク昇格もその際に教えてくれるような仕組みになっていると彼らは話した。
何ともすごい技術力を感じるが、どうやらその感覚は間違っていないようだ。
「アーティファクトって言ってな、この世界の神様が創ったって言われる、ものすごいお宝アイテムらしい。
しかも他人には使えず、なくしても本人なら再発行できるって優れものだ」
神が創造したアイテムの総称をアーティファクトと呼ぶ。
冒険者カードだけじゃなく世界中に点在していると言われるもので、そのひとつでも発見すればひと財産どころか、5回は人生を遊んで暮らせるほどの大金で売れるのだとか。
当然効果も凄まじい物ばかりだと彼らも聞いているそうだが、実際に見たことはないらしい。
それだけのアイテムを売ること自体、まずありえないそうだ。
彼らはここから東にある町のギルドで、ある依頼を受けた。
本来は探索依頼を主に受けているランクB冒険者だが、今回はある理由から依頼を引き受けたんだよと、ディートリヒは怒気を含ませた声色で低く言葉にした。
その準備をしていたところに俺を見つけた、というのがあらましのようだ。
彼らの言うギルドとは冒険者ギルドのことで、他にも様々な組合があるらしい。
大きく分けると商業、工業、林業、食品、そして冒険者の5つに分類される。
それぞれ得意な分野のギルドで活躍しているのが一般的のようだ。
その中でも冒険者とは、魔物討伐、採集、運搬、護衛、調査、配達が主になる。
自由闊達と言われる冒険者は、この世界でも憧れの職業のひとつなのだとか。
中には自由を履き違えて、暴力事件を起こす輩もいないわけではないそうだ。
そんな連中のことを冒険者崩れと呼び、ギルドから改善命令が通達される。
残念ながら、そういった連中の多くが従うことはないらしい。
そのまま盗賊や山賊に身を落とす傾向が強いと教えられた。
「冒険者から盗賊行為をした者は、ギルドから除名された上に指名手配犯となる。
やつらは総じてレベルが高い。元は冒険者として活動していた奴等だからな。
多額の懸賞金をかけられ、時にはギルド側から討伐依頼を出すこともあるんだ」
苛立ちを強く感じさせる彼の言葉に間が空く。
さっきも思っていたことだったが、やはり何かあるらしい。
凍りつくような空気の中、フランツは険しい顔で話した。
「さっきディートがギルドから依頼を受けたって言ったよな?
俺達は、その懸賞金がかけられている盗賊を捕縛しに来たんだよ」
「……それは、かなり危険な依頼なんじゃないですか?」
俺の言葉に、空気が急激に変化する。
激しい怒気が彼らを包み込んでいるのを強く感じられた。
エックハルトは冷静に答えるが、心の奥底では強い苛立ちを覚えているようだ。
「……ですが、それも仕方がありません。
彼らを放置することは、私達にはもうできないのです」
いったい何をしたんだと思わずにはいられない。
だが、それについても彼らはしっかりと話してくれた。
それを聞いた俺は、その対象者が間違いなく悪党だと確信する。
「街道で商人を襲い金品を強奪するだけじゃなく、護衛冒険者の命まで奪った。
だがそれも仕方のないことだ。魔物を命懸けで狩る職業に就いてるし、逆に狩られることも考えるのは当然だ。盗賊が存在するのも承知で冒険者になっているんだから、そのくらいの覚悟は誰もが持ってる」
冷静に答えるディートリヒ。
しかし、続く言葉に激しい怒気を含ませながら話した。
「……だが俺達の追っている連中は最低だ。女子供にまで手をかけた。
綺麗どころを下卑た笑いで穢し、不要になれば奴隷として他国に売り飛ばした」
「……瀕死の重傷を負った女性を私達は発見し、その事実を知りました。
回復魔法も効果がなく、尊い命を救うことは叶いませんでしたが、盗賊団が潜伏しているアジトの情報と、何が起きたのかを懸命に訴えて下さいました」
「野郎どもはその人を売ろうとしてたんだが、隙を見て逃げ出したそうだ。
そこを捕まって暴行を受け、そのまま放置して去って行ったらしい」
「ただの盗賊団捕縛依頼なら僕達は受けなかったと思います。
でも、あの人の姿と涙を見てしまったら、僕達はもう引き下がれない」
「……どんな手段を使ってでも壊滅させてやる」
ディートリヒは強く言葉にした。
だが、実際にどれだけ強さを持つ輩がいるかは現在も不明らしい。
情報不足はかなりの危険が伴うことも間違いないだろう。
たったの4人でそれを成そうとしている彼らに、俺は自然と言葉が出た。
「俺も行きます」