手のかかった子の方が
ある程度話し終えると、ラーラは納得したように言葉にする。
「……なるほど、この子が噂のフィヨ種なのね。
でもちょっとくらい手のかかった子の方が可愛いって言うし、こうして無事に町を歩いているってことはもう大丈夫そうね」
「だと嬉しいな。
これで他の町にも入れる希望が出てきたよ」
「そういえば、でぃーちゃん達に会いに行くんでしょ?
これから迷宮都市を目指すのかしら」
「そのつもりだ。
だがこのままじゃ危ないから、まずはフラヴィをある程度強くしてからだな」
「……ピングイーン属って、世界を冒険できるほど強くなれるのかしら……」
難しい顔をしながらフラヴィを見つめるラーラ。
視線が合うと首をかしげる子の愛くるしい仕草に、顔をへにょりと緩めた彼女は優しく頭をなでる。
この子に素質はあると聞いてるが、実際にどうなるかはわからない。
修練をしてくれるかも分からない以上、答えはここで出せないか。
「どうなんだろうな。
育て方と本人次第だとは思ってるが、他のピングイーン属は強いのか?」
「ん~、凶暴なピングイーンはゴブリンより強いけど、ボアには勝てないって話を聞いたことがあるわね。
強さに順位を決めるなら、下から数えた方がいいくらいだったと思うわよ」
「ボア。猪の魔物か。
そういえば、町に来るまでに猪を1頭倒してるな。
……いや、1メートルはこの世界ならそれほど大きくもないんだかったか。
あれの魔物にも勝てない種族なのか、ピングイーン属は」
「そう言われてるわね。
もっとも、猪よりもボアは凶暴だし、耐久力も高いから何とも言えないわ。
フラヴィちゃんは体も小さいから、力も他の魔物と比べればかなり弱いと思う。
中々すばしこくて攻撃を当てるのが難しいけど、耐久性も低いって噂だし」
「まぁ、育ててみなきゃ分からないことも多いだろ」
前向きな言葉に苦笑いをしながらラーラは答えた。
そんな顔を見たのはこの服をもらった時以来で、少し懐かしい気がした。
「ポジティブねぇ、トーヤ君は。
ゴブリンだっていい武具を装備させればそれなりに強いそうだし、フラヴィちゃんは魔物だから潜在的な能力は動物とは比べ物にならないくらい高いと思うけど、訓練をしてもどれだけ強くなるのかはさすがに分からないわね」
「すべてはフラヴィ次第だが、無理強いをするつもりはない。
強引に強くしようとすればそれだけ危険も付きまとうからな。
それなら俺がこの子を護りきれるくらい強くなればいいだけだ」
「……そう思えるのもトーヤ君が強いからだと、お姉さん思うな……」
困ったように微笑むラーラに懐かしさを覚える。
それほど離れてはいなかったが、妙な感覚だなこれは。
数日しか滞在していないが、どことなく家にいるような安心感があった。
「……で。
これまで何を食べていたのかは理解した。
やっぱりあのレシピでも難しすぎたか?」
「あっははは!
私があんなお料理を作れたら糧食なんて食べないわ!
お姉さんの絶望的な料理スキルを舐めちゃだめなのよッ!」
「それは胸を張って言葉にするようなことじゃないと思うんだが……。
小学生でも作れるはずのレシピだったんだが、やっぱりだめだったか」
「うん。ショウガクセイってのが何かはわからないけど、あまりいい言葉として使われていないことだけは理解できたわ」
「その察しの良さをほんの少しでも料理に向ければ、今後の生活が大きく変わると思うんだが……」
肩を落とす俺に『無理ね』と笑いながら断言されてしまった。
ここまで料理に絶望的な人を俺は見たことがない。
誰かが傍で作らないとだめな人って、世の中にいるもんなんだな……。
「まぁ、丁度昼時だし、まだ食事も取ってないよな?
どうせ何もないんだろうし、適当に作るから材料を買ってくるよ」
「あ、それならそろそろ帰ってくるところだと思うから、大丈夫よ」
「帰ってくる? それって、どういう――」
ドアベルが鳴り、思わず『いらっしゃい』と言葉にしかけて口を噤む。
これが職業病と言われるやつだろうかと思いながらも、来店者へ視線を向けた。
「色々買ってきたわ。
もうそろそろ自炊できるようになった方がいいわよ」
「おかえりなさーい! この子が話してた子で「パティさん?」」
思わずラーラの言葉を遮ってしまった。
何でここにと考えながらも、確かにこの町を目指す途中だと言っていた。
それがまさかこんな場所で再会できるとは思ってもみなかった。
世間ってのは広いようで狭いものなんだな。