それが務め
"夢と魔法の道具屋さん"
店主自らがそう名付け、運営する魔導具店だ。
外観はどことなく怪しげな雰囲気を醸し出すも、店内はとても明るく店主も笑顔で接客してくれる上に、このデルプフェルト唯一の魔導具を扱う店となっている。
種類も様々で、冒険に役立つ物はもちろん、主婦にも人気のある道具が置かれるこの店は、幅広い客層が連日訪れる。
「ここがラーラさんの店だよ」
「きゅうっ」
楽しそうに声をあげるフラヴィに頬が緩む。
丸まった石のままで紹介するのもあれだからな。
どうやら開店中のようで安堵する。
臨時休業じゃなくてよかった。
扉を開けると、どこか懐かしい景色と店主が目に映る。
ラーラはいつものように人当たりのいい笑顔で対応した。
「はーい! いらっしゃいま――」
面白いようにぴたりと表情が止まる。
すぐさま驚きの表情に変わりながら言葉にした。
「と、トーヤ君……?」
「久しぶり、ラーラさん」
「トーヤ君! トーヤ君ッ! 美味しいご飯~!!」
滝のような涙を流しながら両手を広げて抱きついてきたが、余計な一言にイラっとした俺は迫り来る彼女を無表情でするりとよけた。
盛大に扉へ頭から突っ込むラーラ。
ものすごい音がしたが、この人なら大丈夫だろう。
案の定、鋭く起き上がった彼女は涙目で訴えた。
「トーヤ君ひどいわっ!
そこは強く抱きしめてくれるのが優しい旦那様の務めなのよ!?」
「それなら俺の名前が"美味しいご飯"じゃないことは知ってるよな?」
「あ、あらあらやだわぁ、私ったら。
ついつい本音が出ちゃったわね、ほほほ」
視線を外しながらばつが悪そうに答えるラーラ。
どうやら相変わらずの食生活を続けていたようだ。
「……予想通り、また缶詰生活か……」
「それがトーヤ君のご飯食べた後だと全然美味しくないのよ!
というか、よくあんなものこれまで食べてたわねってくらい美味しくないの!
だから責任を取って私と結こ「しない」むぅッ」
ヒマワリの種を頬袋へ詰め込んだハムスターのように頬を膨らませるが、さすがに大人の女性がそれをしても可愛くないのだと知った。
この人はこれまでどうやって生きて来れたのか心配になる。
「膨れても結婚はしないが、食事くらいは作るよ」
「ほんと!?」
「それと、この子を紹介しに来たんだ」
抱いていたフラヴィはラーラを直視する。
どうやら震えることはないようで安心した。
フラヴィを見たラーラはとても優しい笑顔になりながら答えた。
「あらあら、可愛いお客様ね。
例の卵から産まれた子なのかしら?」
「あぁ、フラヴィだ」
「よろしくね、フラヴィちゃん」
「きゅうっ」
「やだ、この子、可愛すぎるっ。
おいでおいで~、だっこさせて~」
両手を広げて招き入れようとするが、俺の顔を見上げて確認した。
フラヴィにはどうしていいのか分からなかったようだ。
「大丈夫だぞ、フラヴィ。
このお姉さんは変わってるが、中身はとてもいい人だ」
「……言うようになったわね、トーヤ君。
お姉さん、あなたの成長にちょっと寂しいわ」
恐る恐る身を乗り出し、ラーラにされるがまま抱き上げられるフラヴィ。
優しくなでられていると目を細め、くるくると喉を鳴らした。
「へぇ。俺じゃなくてもそういった音を出すんだな」
「これでも私、動物にはモテモテなのよ」
「フラヴィが懐いてくれるのは助かる。
さっきまで人の往来を見ながら訓練してたくらいだしな」
「訓練? どういうことなの?」
首を傾げるラーラにフラヴィとの経緯を話し始めた。