小さな世界
じっと動かず、視線を外へと向けるフラヴィ。
その小さな瞳には、どんな風に世界が映っているんだろうか。
「見えるか、フラヴィ。
これが"世界"だよ。
でもまだまだ小さな世界なんだ。
これから俺はたくさんの町や人に出逢いたいんだ。
俺と一緒に世界を歩いてみないか?」
「……きゅぅぅ」
フラヴィは小さく声をあげる。
今までとは明らかに違う別の声色を。
目に映る世界へ向けられている好奇心の声を。
ありがとうフラヴィ、俺のわがままに付き合ってくれて。
フラヴィのお蔭で俺は、いや俺達は、町中を歩いていけそうだ。
これからたくさんのことを体験しながら世界を歩いていけそうだよ。
そんなことを考えているわずかな間に、フラヴィは視線を行き交う人に向けて行ったり来たりさせていた。
本当にパティの話していた通りの子だったようだ。
フィヨ種は好奇心が旺盛だ。
フラヴィと生活を始めてから理解はしていたつもりだったが、まさかこれほどまで外に興味を示してくれるとは思わなかった。
いつの間にか震えも起きていない。
時折見える横顔に覇気がある。
瞳の色にもそれがはっきりと感じられる。
すごいな、フラヴィは。
こんな短期間で克服できるなんてな。
……あとは、魔物か。
もう一度遭遇すればわかることだが、それもきっとじきに慣れるだろう。
そう遠くないうちに戦えるようになるかもしれない。
そんな可能性を、俺は大きな勇気を持った小さな子に持つことができた。
「ラーラさんに会いに行こうか」
「きゅう?」
顔を見上げ、首をかしげるフラヴィにラーラの話をしながら俺達は歩く。
来た時と大きく違うのは、この子自身が外の世界に興味を持ち、背中を腹に預けながらくつろげるようになったことか。
とても満足そうにくるくると声を上げていた。
この子の姿が目に留まった人達は一様に驚く。
二度見する男性、可愛い可愛いと声をあげる子供達。
中には笑顔で頬に手をあてながら優しく微笑む女性もいた。
その誰もがフラヴィに悪い印象を感じるような視線を向けなかった。
フィヨ種はそういった種族なのだろうかと考えるも、やはりそれは魔物ではなく動物のヒナとして扱われているのだろうと俺は確信した。
ペンギンのヒナだとはさすがに理解はされてないだろうけど、それでもまるで世界にこの子が受け入れてもらえたような嬉しさを感じながら、俺は興味深げに周囲を見つめるフラヴィに話を続けながら歩く。
今はブランチといった頃合だろうか。
丸一日は覚悟していたが、思っていた以上にいい方向へ進んでくれた。
すべてはこの子のお蔭だ。
フラヴィの頑張りで俺は世界の町を歩けるようになった。
湖に戻ったら、俺の知っている物語をこの子に聞かせてあげよう。
どんな話に興味を持つかは分からない。
でも、子供向けの話ならいくらでも知っている。
まさかこんなところで役に立つとは思っていなかったが。
どんなことにも使いどころがある、ということなのかもしれないな。