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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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家族なんだ

 変わらず強く震えるフラヴィに申し訳なく思いながらも、俺は話しかける。

 優しく丁寧になで続け、とても静かな声色でゆっくりと言葉にした。


「フラヴィ。

 俺の声が、俺の鼓動が聞こえるか?

 俺はずっとフラヴィの傍にいるよ。

 離れたりしない。独りにしたりもしない。

 俺達は"家族"なんだ。

 だからずっと一緒にいるよ。

 フラヴィが望むならずっと傍にいるよ」


 顔を俺の胸に埋め、強く震えていたフラヴィ。

 そんな彼女に人の行き交う町は酷かもしれない。


 それでも、違った生き方ができるかもしれないんだ。

 一緒に世界を歩き、町で生活することだってできるかもしれないんだ。


「大丈夫。大丈夫だよ。

 何も怖がることなんてないんだ。

 何も怯えることなんてないんだ。

 俺がずっとフラヴィの傍にいるから。

 だから少しだけ、勇気を出してみないか?

 ほんの少しだけでいいんだ。

 その目に世界を映してみないか?

 そうすればきっと、フラヴィの世界は広がるんだ。

 そうすればきっと、俺達はこの世界を旅できると思うんだよ」

「…………きゅぅ……」


 聞こえないくらい小さな声をあげるフラヴィ。

 それはとても弱々しく、まるで儚げに聞こえてしまう声に胸が締め付けられるが、ほんの少しだけ震えが落ち着いたようにも俺には思えた。



 5分、10分と時間は流れ、ゆっくりとではあるが変化を見せ始める。

 震えが消えることはなかったが、それでも徐々に落ち着きを感じさせた。


 初めはとても怯えた瞳で俺の顔を見上げて小さく声を出し、それに俺は答える。

 優しくなでながら穏やかな声で返したのが功を奏したのか、徐々にその回数は増えていき、しっかりとした瞳をするまでじっくりと時間をかけた。


 随分と落ち着きを見せているように思えた俺は、なおも小さく震えるフラヴィに話しかける。


「フラヴィ。

 周りを見てごらん。

 行き交う人達は怖くない。

 みんな何か目的があって歩いているんだ。

 俺だってしたいことがある。

 フラヴィと一緒に町を歩いて、たくさんの楽しいことを一緒に感じたいんだ」

「……きゅぅ?」


 首を少しだけ傾げながら俺に声をあげる。

 まるで聞き返しているようだが、その内容は不思議と心に伝わった気がした。


「そう、楽しいことだよ。

 何かあれば、俺が必ずフラヴィを護るよ。

 怖い奴がいれば俺が必ず追い返すから。

 ゆっくりでいいんだ。周りを見てごらん」


 優しくなでる俺を見つめながら聞き続けるフラヴィ。

 ちらりと首をわずかに横へ向け、すぐに視線をこちらに戻した。

 その恐る恐る周囲を確認するような仕草も可愛く思えるが、それほど時間をかけずに変化を見せる。

 ようやく横目に人の往来を見ることができるようになったようだ。


 しがみつくように強く抱きつき、震えながらではあったが。


 だがその震えも、これまでとは少し違うように思えた。

 それは、恐れからくるものではないのかもしれない。


 俺にはそんな風に感じた。

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