家族なんだ
変わらず強く震えるフラヴィに申し訳なく思いながらも、俺は話しかける。
優しく丁寧になで続け、とても静かな声色でゆっくりと言葉にした。
「フラヴィ。
俺の声が、俺の鼓動が聞こえるか?
俺はずっとフラヴィの傍にいるよ。
離れたりしない。独りにしたりもしない。
俺達は"家族"なんだ。
だからずっと一緒にいるよ。
フラヴィが望むならずっと傍にいるよ」
顔を俺の胸に埋め、強く震えていたフラヴィ。
そんな彼女に人の行き交う町は酷かもしれない。
それでも、違った生き方ができるかもしれないんだ。
一緒に世界を歩き、町で生活することだってできるかもしれないんだ。
「大丈夫。大丈夫だよ。
何も怖がることなんてないんだ。
何も怯えることなんてないんだ。
俺がずっとフラヴィの傍にいるから。
だから少しだけ、勇気を出してみないか?
ほんの少しだけでいいんだ。
その目に世界を映してみないか?
そうすればきっと、フラヴィの世界は広がるんだ。
そうすればきっと、俺達はこの世界を旅できると思うんだよ」
「…………きゅぅ……」
聞こえないくらい小さな声をあげるフラヴィ。
それはとても弱々しく、まるで儚げに聞こえてしまう声に胸が締め付けられるが、ほんの少しだけ震えが落ち着いたようにも俺には思えた。
5分、10分と時間は流れ、ゆっくりとではあるが変化を見せ始める。
震えが消えることはなかったが、それでも徐々に落ち着きを感じさせた。
初めはとても怯えた瞳で俺の顔を見上げて小さく声を出し、それに俺は答える。
優しくなでながら穏やかな声で返したのが功を奏したのか、徐々にその回数は増えていき、しっかりとした瞳をするまでじっくりと時間をかけた。
随分と落ち着きを見せているように思えた俺は、なおも小さく震えるフラヴィに話しかける。
「フラヴィ。
周りを見てごらん。
行き交う人達は怖くない。
みんな何か目的があって歩いているんだ。
俺だってしたいことがある。
フラヴィと一緒に町を歩いて、たくさんの楽しいことを一緒に感じたいんだ」
「……きゅぅ?」
首を少しだけ傾げながら俺に声をあげる。
まるで聞き返しているようだが、その内容は不思議と心に伝わった気がした。
「そう、楽しいことだよ。
何かあれば、俺が必ずフラヴィを護るよ。
怖い奴がいれば俺が必ず追い返すから。
ゆっくりでいいんだ。周りを見てごらん」
優しくなでる俺を見つめながら聞き続けるフラヴィ。
ちらりと首をわずかに横へ向け、すぐに視線をこちらに戻した。
その恐る恐る周囲を確認するような仕草も可愛く思えるが、それほど時間をかけずに変化を見せる。
ようやく横目に人の往来を見ることができるようになったようだ。
しがみつくように強く抱きつき、震えながらではあったが。
だがその震えも、これまでとは少し違うように思えた。
それは、恐れからくるものではないのかもしれない。
俺にはそんな風に感じた。




