大丈夫なのか
徐々に街門が近付くにつれ、街道も人の賑わいを見せはじめた。
さすがに恐怖心が勝っているのだろうことは、体に伝わる振動で理解できる。
申し訳なくも思うが、これも町で生活ができるようにするためだ。
「大丈夫だ、フラヴィ。
俺が必ず護るからな」
少しでも安心させるように優しく撫で続けながら歩き、俺達は巨大な城砦のような扉を前にして、街門の守護任務についている男性憲兵に止められた。
「……ちょっと待った。
そいつを入れて大丈夫なのか?」
「暴れたりしない子だから、大丈夫だと思うが」
ここで止められることは想定済みだ。
問題はどう言葉にすれば納得してもらえるか、だったんだが、どうやら俺の想像していた展開とはならなかったようだ。
「いや、そうじゃない。
そいつはまさか、噂のフィヨ種じゃないのか?
この町はそれほど大きくないが、それでも多くの者が行き交うんだぞ。
今でもそんなに震えているのに大丈夫なのかと聞いてるんだよ」
「そういうことか。
フィヨ種に詳しい人によれば、町の中で人に慣らすことがいいと言われたんだ。
実際にどうなるかはこの子次第だけど、無理そうならすぐに町を離れるよ」
「……うーん、しかしなぁ……」
「なんだ? 何かトラブルか?」
腕を組みながら悩む憲兵の背後から声が届く。
休憩所と思われる場所からぞろぞろと3人の憲兵がやってきた。
俺の胸に震えるフラヴィを見つめながら、屈強な男達は話した。
「お? こりゃ珍しいな。フィヨ種じゃないか」
「フィヨ種? もしかしてあの噂に名高い?」
「あぁ。俺も一度だけ見たことがあるが、同じように丸くなってたな」
「……ピングイーンってのは、かなり凶暴な奴もいるって聞いたが?」
「あー、そういった魔物と比べられないくらい臆病だって言われてるぞ。
見ての通り顔も見えないくらい丸く縮こまってるし、噂に間違いないようだな。
正直、敵対されても震えたまま殺されるか、逃げ出すかのどっちかって種族だ。
フィヨ種ならヒナでも町に入ること自体は問題ないんだが……」
言葉に詰まる男を前に、俺は嬉しさが込み上げる。
「この子のことを心配してくれてるんだな。ありがとう」
「いや、俺達も珍しい子を見せてもらったよ。
遙か南の方から来たのか?」
「先日この町に着いたんだが、その手前で盗賊団捕縛に協力したんだ」
「そうか、思い出した。
ディートリヒ達のツレで、ローブを着てた少年か。
……なるほど。それでおおよその理解できた。
そこで手に入れた卵から孵化させたのか」
「ああ。
何が産まれるか分からないから、全員に反対されたけどな」
あの時の話を少しすると、苦笑いしながら憲兵の男は答えた。
「まぁそうだろうさ。
俺ならそのまま処分してただろうな。
フィヨ種だと分かっていれば、金に糸目をつけない馬鹿も出てくるだろうが」
「たとえ合法だとしても、売るっていう選択はしなかったな。
折角見つけたんだ。これも何かの縁なんだから、大切に育てるよ。
縁ってのは人の命と同じで、金なんかじゃ買えないからな」
「……いい目をしているな、少年。
俺はデルプフェルト憲兵隊の小隊長を務めているエトヴィンだ。
常に町にいるわけじゃないが、俺がいる時に何か問題があれば力になるぞ」
「ありがとう。助かるよ」
俺はギルドカードを見せながら名乗る。
本来は名前を言葉にするだけでもいいんだが、こういった良くしてくれる憲兵や兵士などが先に名乗り出た場合はこうすると、冒険者の中でも礼儀正しく思われるのがこの世界では一般的とされている。
自然とこの行動が取れることはラーラの教育の賜物だ。
「そうか。よろしくな、トーヤ。
風貌を含めてフィヨ種のことも仲間に伝えておくよ」
「助かる。ありがとう」
お礼を伝え、俺達は町へと進んだ。
とはいえ、いきなり奥まで入ることはできない。
まずはフラヴィを人の世界に慣れさせないといけないからな。
街門を抜け、人通りのそれなりにある道を見つけた俺はフラヴィに話しかけた。




