これでもかと
ぱちぱちと薪が爆ぜた音で目が覚めたのか、フラヴィは声をあげるがまだ寝ぼけ眼のようだ。
まるでふわふわとした気持ちでぼんやりとしているこの子の目が完全に覚めたのは、瞬くような星が空いっぱいに彩を添えた頃だった。
「目が覚めたのか、フラヴィ。
そろそろお腹空いたんじゃないか?」
「きゅうっ」
元気に返事をするこの子へインベントリに入れておいた"釣れたて新鮮小魚"をあげると、嬉しそうにほおばりながら体を揺らした。
「美味しいか?」
「きゅうっきゅうっ」
まだ小魚が飽きてないようでホッとする。
残念ながら、この子はものを噛み砕くことができない。
くちばしである以上、丸呑みをするのも仕方のないことではあるんだが。
大人になれば今よりも体が遙かに頑丈になるので、たとえ硬い牛肉のステーキだろうが食べやすい大きさなら大丈夫だとパティは教えてくれた。
ヒナのうちは柔らかいものを求めるので、好むものをあげる方が胃にも優しい。
そういった意味では、もう大人と同じものをあげてもいいのかもしれない。
そろそろ満腹になる頃合を見計らって、食べやすく切った果物をあげてみた。
優しい香りと初めての甘い味に瞳をきらきらとさせたこの子を見ていると、あげてよかったと頬を緩ませる。
噛めなくとも味や香りはわかるんだ。
今度は細かく刻み、木匙であげてみた。
これでより甘さを感じられるだろう。
上手に匙から食べたフラヴィは、これでもかと瞳を輝かせながら固まっていた。
よほど美味しかったのだろう。
いつもよりも勢いよく食べ続けた。
「随分一杯食べたな。
お腹がぽっこりしてるぞ。
そんなに美味しかったのか」
「……けふっ」
「なら、もっと作っておくよ。
また明日食べような」
「きゅうっ! きゅうっ!」
いつもより大きめに鳴く幸せそうなフラヴィを撫で、俺はさらに細かく刻み、果物入りのジュースを作る。
少し摘んでみたが、とても上品なシトラスの香りがするりんごのような食感の果物で、酸味は一切なく、甘さもほどほどだった。
これほどの果物が自生していることに驚きを隠せない。
こういったものは強めの酸味が残っているものだと思い込んでいたが、食べてみなければわからないこともあるんだな。
見た目は青りんごだから、それっぽい味がするんだと思ってたが、さすが異世界といったところだろうか。
"ユクルの実"か。
食べられるかどうかだけはラーラから学んでいたが、こんなにも美味いものがあるんなら、他にも果物探しをしながら世界を歩くのも楽しそうに思えてきた。
すり鉢ですりおろし、できたものをそのままインベントリに収納する。
液体だろうと固体だろうとしまうことができるこのチートスキルは、今後もかなりお世話になりそうだな。
3個の果実をジュースにし終えた頃、フラヴィは膝の中でかくんと落ちた。
「……きゅぅ……」
「ごめんな、フラヴィ。
気づいてあげられなくて」
自分のために作っていたのを、この子はしっかりと理解していたのだろう。
作業を中断して道具をしまう。
膝に落ちたフラヴィを寝かし付けるように枕を差し出す。
すぐにすやすやと眠る子を優しく撫でながら、俺も瞳を閉じた。
涼しげな風が心地良く身体を包み込む。
今夜もとても天気のいい日だった。