それなら何も
今回のドロップ品は1kgほどの猪肉だった。
ラーラの話では、動物から落とす肉の確率はかなり高いらしい。
しかし、猪一頭から出る肉の量としては首をかしげざるをえない。
実際には枝肉として手に入る量までなら出るらしいが、彼女もこれに関しては確証を持っていないそうだ。
今回は食材のみだが、運が良ければ皮や角、牙なんかも落とすようだ。
物によっては非常に高価な素材も多いので、動物専門に狩る冒険者も多い。
魔物を狩るよりも比較的安全だと言えることも大きいらしい。
とはいえ、ある程度は戦えなければ、魔物と遭遇するだけでも危険となる。
どちらも命懸けの職業であることは変わらないだろうな。
畜産についてもラーラから学んでいるが、どうやら魔物と法則は変わらないようで、畜産動物からもドロップ品を落とすという、とても不思議な世界のようだ。
それでも闊歩する野生動物とは違い、多くのドロップ品が得られるそうだが。
そんな不思議な世界を、俺達はゆっくりと歩き続けた。
再び地面に下りたフラヴィは、カルガモの子供のように俺の通った道を辿る。
動物であるペンギンのヒナが同じような行動を取るかはわからないが、何とも可愛らしい姿に頬が緩むことが最近では非常に多くなったように思えた。
そういった余裕がこれまでなかっただけなのかもしれないが、フラヴィと出逢ってからは随分と心が平静を保ち続けている。
これは俺自身にもいい傾向だと言えるだろう。
周囲の警戒をおろそかにしないようにしなければならないが、それでもこの子と共に歩くことは不思議と心が落ち着いた。
「……きゅぅ……」
「おいで、フラヴィ」
歩き疲れるとまた抱き上げ、そのままこの子は俺の胸で眠ってしまう。
それをしっかりと声で知らせてくれるのも、フラヴィの性格なんだろうか。
寝る子は育つと聞くし、ほんの少しの運動でも体作りになるのかもしれないな。
特にこの子は魔物らしいから、並の動物とは違って相当体力もありそうだ。
徐々にではあるが歩ける距離も増えていくんだろうし、いずれは世界を歩けるだけじゃなく、魔物や襲撃者も撃退できるだけの強さを学ばせたい。
フラヴィがたったひとりだけでも生きていける強さを……。
可能であれば、一緒に……いや、それは良くないことなんだろうか。
この世界の住人ではない俺が、ある日突然見知らぬ場所に飛ばされたんだ。
この世界を生きる住人だって、あの場所に飛ばされていることがあるのか?
それなら何も、フラヴィと離れることは……。
そう考えること自体、良くないことなのか?
世界を渡る行為には危険が伴うのか?
いつかはこの子自身が俺から離れたいと思うような大人になるのか?
この子であれば、普通のペンギンとしても生きていけるんじゃないか?
元いた世界に連れていくことだって考えてもいい気がしてきた。
こんなにも寂しがりやの子を放って、俺はあの世界に帰ることができるのか?
どうすることが最良の選択になるんだろうか。
答えの出ない疑問が次々と浮かぶ。
* *
静かな浅い森を穏やかな気持ちで歩き続ける。
日が傾き、木々の隙間から降り注ぐオレンジ色の光はとても幻想的に見えた。
道中、木になっているユクルの実をもぎりながらインベントリに収納し、たまにはこういったものもフラヴィにあげようかと考えながら、この日の散歩を終えた。




