素敵な発想
なおも雨は強く降り続け、ようやく晴れ間を見せた頃には朝となっていた。
その間、気になっていたことやフラヴィについての話を聞いた俺は、パティの助けで随分と知識を得ることができた。
中でも印象的だったのは、フィヨ種が身体能力の高い種族だということか。
正確にはピングイーン属の中での話になるが、それでも意外に思えてならない。
「もしもこの子の怖がりが治れば、それこそ頼もしい旅の仲間として連れ歩けるかもしれないわね」
「それはそれで興味が尽きないが、俺は戦うことよりも護ることを覚えさせたい」
「そうね。それはとても素敵な発想ね」
「否定はしないんだな」
「素敵なことだもの。否定なんてできないし、私はしないわ。
強さには色々な種類がある中で、護るための戦い方ができる人はとても強い。
フラヴィちゃんの心の弱さが解消されたら、きっとそうなれると思えるわ」
「心が強くなれば、俺が一から教えてあげられるんだがな……」
「ふふっ。期待してるわ、"フラヴィちゃんのお父さん"」
とても嬉しそうに微笑みながらパティは答える。
実際にそれさえ改善できれば、という期待は持っている。
心さえ強くなればかなり本格的に鍛え上げられそうだ。
特にこの子は身体的に言えば動物ではなく魔物に分類される強靭さを持つ。
聞き分けがいいのはこれまでの生活でわかっていたが、物覚えもいいそうだ。
もしそれを実現できれば、ふたりで世界を歩くことだって叶うだろう。
俺はそんな楽しく思える未来に思いを馳せていた。
「それじゃあ、私はそろそろ行くわね」
「すまない。大して休めなかったよな」
「いいえ、とても助かったわ。
雨をしのげる場所があるだけでも相当ありがたいものなのよ」
確かにそうではあるが、一晩中話してしまったことに申し訳なさを感じる。
俺の感情を読み取られたのか、パティはくすりと小さく笑いながら言葉にする。
「でも、フラヴィちゃんのためになったでしょう?」
「それは、そうだが……」
「なら、それで十分よ。
これからも大切な家族を護ってあげてね」
「ああ、それについては約束できる。
……もう少し休んだらどうだ?」
パティは視線を泉のほとりへ向けると、どこか楽しそうに答えた。
「雨上がりには素敵なお花が咲くのよ。
リールの花って言ってね、良薬が作れるの」
「そうなのか?」
「ええ。激しい雨が止むと一日だけ咲くと言われる、採取する機会が少ない花よ。
おまけにフェルザーの湖周辺の、それもこの時期じゃないと咲かないこともあって、私、テンションがかなり上がっちゃってるのよね!」
「そ、そうか……無理はしないようにな……」
「大丈夫よ。それくらいできなければ、一人旅なんて難しいもの」
そう言葉にしながら優しくフラヴィを撫で、パティは笑顔で去っていった。
多くを彼女から学んだ俺は、この子のことをより知ることができた。
心からの感謝をしながら、野営に使っていたものをインベントリに戻す。
眠っているフラヴィを抱き上げ、最後に残ったテーブルを収納する。
寝ぼけ眼の彼女を優しく撫でながら空を見上げ、言葉にした。
「町に戻るか」
若干眠そうなフラヴィを抱え、雨上がりの匂いがする林を歩き出す。
旅の連れとも言えないような小さな子を大切に抱いて、俺達は町を目指した。