来訪者
フードを外した女性に俺はタオルを差し出すが、彼女は笑顔で答えた。
少々垂れた瞳が可愛らしさを演出するも、大人の女性にそれを言うのは失礼か。
「ありがとう。
でも魔法を使うので大丈夫ですよ」
そう言葉にして、女性は生活魔法のドライを使った。
衣服だけじゃなく様々なものを乾燥させるのに使えるこの魔法はかなり便利だ。
生活魔法は攻撃や防御魔法とは違い、とても有用性が高く、回復魔法の次に便利だと思えてしまうこれらは、文字通り生活には欠かせないものとなっている。
冒険者でなくとも必要とされている魔法の類で、主婦であれば必ず覚えるべきとまでこの世界では言われているようだ。
「まさかこんなにも長雨が続くとは思っていなかったわ」
「今は穏やかな気候だし、こうも強い雨が降るとは俺も考えていなかった」
「本当にびっくり。予定が少々ずれてしまったわね」
「デルプフェルトへ向かう途中か?」
他意はないが、話の流れでつい訊ねてしまった。
あまり女性に行き先を聞くのは良くないんだが、彼女は笑顔で答えてくれた。
「ええ。この辺りにはとても貴重な草花が多く咲いてるの。
水辺に生えてる薬草やお花を採取しながら町を目指していたのよ。
しばらくはここで休ませてもらってもいいかしら?」
「構わない。俺もこの雨じゃ動けないからな」
「すごい雨ね。このまま動き回るとさすがに危ないわ。
……あら? あらあら、とても可愛らしい子を抱えているのね」
俺の腹にうずくまる子を見つけたのだろう。
どちらかと言えば、石のように固まって意識を逸らしていたのか。
フラヴィは彼女の言葉を理解してか、再びぎゅっと俺に強く抱きついた。
その姿にほっこりとした様子で頬に右手を当てた彼女は、静かに言葉にした。
「ごめんなさいね。
とても怖がらせてしまったわね」
今の仕草は悪意を感じないどころか、とても友好的なものだった。
この人になら名前くらい話しても大丈夫だろう。
「フラヴィだ。
見ての通り、相当の怖がりなんだ」
「ええ、そうでしょうね」
気になる言葉を聞いた。
今の言い方ではまるで――
「……この子の種族を知ってるのか?」
「ええ、もちろん知ってるわ。
この辺りじゃとても珍しい子だし、生態までは知られてないでしょうけど」
「なぜそんなことを知ってるんだ?」
思わず言葉が自然と飛び出てしまうが、探求心には勝てなかった。
何よりも、フラヴィのためになる必要な知識を彼女は持っていると聞こえた。
「そういえば、自己紹介がまだだったわね。
私はパティ。趣味で魔物の研究をしているの」
研究という単語にいささか疑問を持たざるをえないが、彼女の優しい笑顔から発せられた言葉に一筋の光明が差したように思えた。