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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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手のひらは枕

 1時間ほど眠っていたフラヴィだが、目が覚めると同時に大きく声をあげた。


 俺は用意しておいた柔らかめのミルク粥を長細い木の匙で与える。

 丸みを帯びたものなので、この子が傷つくこともないだろう。

 お粥もぬるめになってからインベントリに入れてある。

 こちらも喉や舌、胃を痛めることはないと思えた。


 魔物を育てる際の注意点は、人や動物とは随分と違う。


 熱すぎるもの、冷たすぎるものを与えないこと。

 塩辛いもの、香辛料を利かせたものを与えないこと。


 この程度だ。


 犬や猫のようにネギをあげないように、といったことも魔物にはないらしい。

 それはたとえ犬猫の魔物であろうがまったく問題がないと、ラーラから学んだ。

 やはり動物とは明らかに違う体の構造をしているようだ。


 そして成長すれば、小型犬でも大の大人を背に乗せられるほどの頑強さを持つ。

 もしかしたら、この子でも俺を持ち上げるだけの力を持つのかもしれないな。


 基本的に好き嫌いせずに何でも良く食べ、良く眠り、そしてまた食べる。

 ……うちの道場のちびっこどもにも聞かせてやりたいくらい好き嫌いがない。


 お腹が空いたら泣き出し、満足したら眠りに就く。

 このサイクルをだいたい3時間おきに繰り返すみたいだ。

 はっきり言って、まったく手がかからない。


 いや、3時間おきってのは厄介なんだろうな。

 ノイローゼになる女性も多いと聞いたことがある。

 最初は大丈夫だと思えても気をつけないといけないな。


 でもご飯は保存できるし、同じ物でも魔物の子は好んで食べるそうだ。

 問題があるとすれば、魔物や賊が来た時だな。

 その方が遙かに厄介で面倒なことになる。

 しっかりと周囲の警戒をしなければならない。



 寒そうだと思えた俺はタオルでフラヴィを包んだが、この子にとっては相当嫌なことだったようで、火がついたように泣き出してしまった。

 初めはお腹が空いたのかとも思ったが、強引にタオルから抜け出したフラヴィは俺の手のひらまで出ると、またすやすやと寝息を立てた。


 どうやらタオルが相当嫌いらしい。

 もしかしたら俺の体温が心地いいのかもしれないな。

 そんなことをしみじみ思えた。



 *  *   



 一週間がすぎた。

 フラヴィは相変わらずご飯と睡眠を繰り返す。


 この数日で変わったことは、大きさが30センチまで急成長したことと、起きている時間が多少できたこと、この子の寝床が手のひらからあぐらや膝の上、枕が手のひらになったくらいだろうか。


 今もちょこんと座るフラヴィは時たま俺の顔を見上げ、何かに納得したように正面や左右を興味深そうに見ていた。

 俺が傍にいるのか確認しているのかもしれないな。



 食事を求める時の強い鳴き方も、この頃はしなくなった。

 寂しい気もするが、少しずつ成長しているのはいいことだ。


 お腹が空くと俺を見上げ、何度か鳴き声をあげる。

 満腹になれば腹に寄りかかり、けふっと小さく音を立てて横になる。

 手を枕にしなければどうにも落ち着かないらしく、何度も俺を見上げた。

 まるで枕をねだっているようで、俺にはとても可愛く思えた。


 魔物特有の急成長を見せているが、この調子で大きくなればそう遠くないうちに町へと戻れるかもしれない。

 すやすやと気持ち良さそうに眠るフラヴィを撫でながら、膝と右手のひらに感じる心地良い重みと温かさに頬を緩ませた。

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