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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第四章 魔物の卵
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神聖な場所

 木漏れ日が差し込む浅い森を俺は歩いていた。

 随分と違った印象に見えるのは、ようやくこの世界にいる実感を得たからか。

 それとも、これまでそんな余裕すら持つことができなかったからなのか。


「……綺麗な世界だな」


 素直にそう思う。

 木々のざわめきすら心地良く感じる。

 草や土の匂いが鼻をくすぐる。


 思えばここは異世界とはいえ中世だ。

 ゴミが落ちているようなどこかの世界とは違うのだろう。


 空気も濁っていたと感じたことは一度もなかった。

 そういったところも清々しく思えているのかもしれないな。


「静かな旅もいいもんだな」


 しみじみと言葉が出た。

 周囲の危険を察知できるから言えることなんだろうけど、それでも俺には快適に思えた。



 暗くなると(たきぎ)を集めて火を(おこ)し、軽く食事をして仮眠をとる。

 木に寄りかかりながらの睡眠は、不思議と心が落ち着いた。


 もしかしたら、俺にはこういった生活が性に合っているのかもしれない。

 そんなことを思わせるような心地良さに抱かれて、俺は眠りに就く。


 空が白み始める頃に軽く食事を取り、火を消してまた歩き出す。

 朝特有の冷えた空気は体を目覚めさせるには最適だった。



 魔物や賊と出遭うことなく目的地に辿り着いた頃、すでに日は傾きかけていた。


 世界最大とも言われる"フェルザーの湖"を眼前に、俺は圧倒されるかのように目を丸くしたまま立ち尽くす。

 あまりの大きさに水平線の先が見えない。

 海にしか見えないほどの巨大さだが、潮の香りはしなかった。

 噂では水深も確認できないほど深い場所があると言われているが、これだけ大きければ本当なんだろうと思えた。


 湖畔をやや南西に沿って歩き、野営に都合が良さそうな場所を探す。

 時たま湖面を確認すると、魚の影がはっきりと見えた。

 透明度は非常に高く、とても美しい湖だ。

 静かに耳へ届く波音が心を穏やかにしてくれた。


 このフェルザーの湖は小さな湧き水が泉となり、次第に湖となったという伝承がある場所で、女神が地上に顕現した場所だとも伝わる、とても神聖な湖らしい。

 濁りがまったくない透明度の高い水質や鏡のような湖面を眺めていると、今にも精霊や妖精といった存在が出てきそうな気がしてくる神秘的な場所に思えた。

 そういえば、この世界にそう呼ばれる存在はいるんだろうか。


 いかにもな世界を連想しながら歩いていると、丁度良さそうな場所を見つける。

 地面もなだらかで見通しが非常に良く、何よりもほとりの近くに魚が多い。

 ここなら釣りをしながらのんびりと育成ができそうだ。


 タープを木に括りつけて寝床を用意した。

 続けて簡易かまどを転がっていた石で作る。


 薪をくべて火と鍋の高さを調整すれば、ある程度は完成だな。

 ローチェアとテーブルをインベントリから取り出したころ、俺は気がついた。


「……これは、野営じゃなくてキャンプだな……。

 いや、言葉としてはどちらも同じものだろうけど……」


 思わず独り言が出てしまう。

 だが、ある程度快適な空間は作れた。


 あまり深くは考えず、それでよしとするか。

 タープとは、主にキャンプなどで使われる日差しや雨よけの簡易テントです。

 いわゆるレクタングラー型と呼ばれる長方形の布地を地面に6箇所固定したとても簡単に設営できるもので、トーヤ君は地面ではなく木にそれを括り付けました。

 こうでもしないと周囲を目視できなくなりますからね。

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