向かうべき道へ
どこか不思議と懐かしく思える街並みを歩きながら、俺は感慨に浸る。
たった数日しかいなかったのに妙な愛着を感じるのは、この町にも知り合いができたからなのかもしれないな。
とはいえ、ずっとこの町にいるわけにもいかない。
世界を旅してみたいし、何よりも帰還する方法を探さなければならない。
どこを探せばいいのかも、どうすればいいのかも分からない以上、焦っても仕方がないんだが、それでも気持ちが急いてしまう。
まぁ、戻った時に時間が経過していないことを祈るだけか。
神の存在を信じていない俺がいったい誰に祈るって言うんだろうな。
考えただけでも笑えてくる。
「それじゃあ、俺達は乗合馬車だからこっちだな」
「あぁ、みんなも色々とありがとう」
「それはこっちのセリフだぞ。
トーヤのお蔭で俺達はもっと強くなれるからな。
感謝してもしきれない」
「ですね。僕もなんだか心まで強くなった気がします」
「教えていただいたことをしっかりと力にできるよう、研鑽を重ねます」
「ランクAどこじゃねぇ! 俺は"頂点"を目指すぜ!」
力強くフランツは笑うが、みんなならきっと大丈夫だ。
自然とそう思えるのも彼らの人徳なんだろうな。
誰もが憧れ、みんなのようになりたいと子供が目指す冒険者になれる。
「俺達は迷宮都市に長く滞在する予定だからな。
何かあればギルド経由で手紙を送るか、北を目指すといい。
……ひとりで抱え込んで、無茶するなよ?」
「あぁ、そうさせてもらうよ。
俺も魔物が育ったらダンジョンに向かう予定だからな。
その頃には俺も、それなりには強くなってるだろ」
「……これ以上強くなるつもりか、トーヤ……」
「当然だろ。
最強を目指すつもりはないが、負けることは絶対にできないからな。
誰が襲ってきても叩き潰せるだけの強さは身に付けるつもりだ」
「……俺達が迷宮で強くなっても、追いつけそうにないな……」
「どうだろうな。
それもみんなの努力次第じゃないか?
何よりも俺は魔物の育成に入るからな。
実戦経験も乏しい上に、修練も満足にできない。
そういった意味もあって迷宮都市を目指そうと思ってるくらいだ。
下手をすると、本格的な修練はダンジョン内になりそうだな」
にやりと不敵な笑みを浮かべるフランツは答える。
「なら再会した時にゃ、今度こそ倒してやんよ!」
「楽しみにしてる」
それぞれ感謝の言葉を述べつつ、俺達は握手をした。
強く、強く握り締めたその手は挨拶ではない。
俺達にとって、それは大切な約束となった。
誰一人として欠けることなく、もう一度再会するために。
そして俺達は同時に歩き出す。
それぞれの向かうべき道へ。
必ず全員で再会すると誓ったんだ。
俺は一度も振り返ることはなかった。