全力で支援すればいい
間をしばらく空けて訊ねたラーラリラジェイラ。
しかし、言葉にした本人も"その答え"を頭の片隅では理解しているようだった。
「……それで覚醒したモノは、私たちでも斃せるの?」
「……」
「……」
ふたりの沈黙がすべてを物語る。
いや、金髪碧眼の女神であれば討滅も可能だろう。
つまりは、それだけの威力を込めなければ斃せないことを意味していた。
「……最悪ね」
「……そうね。
徐々に強化されている点を鑑みれば、早急に元凶を斃す必要があるわ。
いずれは"種"を寄生させずとも怪物を生み出すかもしれないから。
でも、色々と準備が整わないのよね?」
「えぇ。
もう少し、時間がかかるわ。
みんなも力を貸してくれてるんだけど、どうしてもピースが揃わないのよ。
そんな時にトーヤ君たちの存在を知ってエルルちゃんと連絡を取ったの。
彼らが扱う技術であれば確実な一撃を入れられる上に、別次元に逃げようと両断できるはずだと予測しているわ」
だがそれも、現在のトーヤたちでは不可能だと彼女は話した。
集中して修練に努めようと、人の子には限界もある。
ましてや1年という短く限られた時間の中で、いわゆる流派の奥義、それもさらに先となる"最奥の技術"を手にする必要があるはずだ。
いくら天賦の才を持つ者だろうと、短期間で体得するのはあまりにも厳しい。
特に彼はまだ18歳の少年だ。
それもこれまでの記録を見た限り子供を含む家族の指導に時間を費やしている。
女神たちは口を出せなかったが、さらに3か月は仲間の修練を優先するだろう。
それでは時間が足りなくなる可能性もある。
しかし、彼自身が何かを掴みかけているとも感じ取れた。
もしそうだとすれば、"先読みの女神"が視た通りのことが現実に起こる。
「彼に助力を求めるのは女神として情けない限りだけど、トーヤ君たちにしかできないのなら頼らざるを得ないわね」
ラーラリラジェイラは申し訳なさそうに答えた。
もう二柱の女神も同じ気持ちだった。
人の子の、それもあんなにも若い少年の力を借りなければ解決できない事態に陥るとは思わなかったとしても、そこまでの状況に追い込まれた自分たちの不甲斐なさを噛みしめていた。
続く彼女の言葉にはどこか希望を感じさせるものの、不安と期待が入り混じる複雑な想いが込められたものだった。
「彼女の"未来視"はほぼ確実だから、間違いはないと思うけど……」
「"失敗は許されない以上、不安は残る"と言いたいのね」
「……そうね。
もしそんなことになれば、私たちが責任をもって封印するわ。
可能ならおじいちゃんの力を借りたいところだけど、管理世界から離れるのは危険だし、恐らく敵はそれを狙っていると思えるの。
敵に回せばどうなるのかよりも、そんな思考すらしないんでしょうね。
そういった常識が通用しない存在を相手にしているのは間違いないわ」
疲れたように彼女はため息をついた。
とはいえ、"未来視"とはそれほど万能ではない。
起こりうる可能性を限定的に推察することで一部が視えてくるものであって、未来に起こるありとあらゆる現象を知覚できる便利なものでは決してなかった。
「それでも十分すぎるわ。
彼女のお陰でトーヤ君の存在を知ったんでしょう?」
ラーラリラジェイラの問いに、金髪の女神は肯定した。
逆に言えば、これはまたとない最高の好機となりうるだろう。
それを活かすことができればではあるが、トーヤたちの存在が一筋の光明となるのなら神々は全力で彼らの支援をすればいい。
「……人の子にすべてを託すようで、申し訳ない気持ちにはなるけれど……。
……神だなんて名乗っておいて、本当に情けない限りだわ……」
呟いた彼女の言葉に、難しい表情をしながら沈黙で答えるエルルミウルラティールとラーラリラジェイラだった。




