あなたたちだけだと思うわ
ラーラさんに視線を向けた俺は挨拶をするように話した。
聞きたいことはまだあるが、まずはやるべきことがあるからな。
「それじゃあ、俺たちは行くよ。
またバウムガルテンで会えるのか?」
「そうね。
しばらくお店は準備中にするつもりだから気兼ねなく話せるわよ。
美味しいごはんを作ってもらえるのを楽しみに待ってるわ!」
「……そう言うと思ったよ……」
深くため息をつきながら俺は呟いた。
続けて女神に向き合った俺は、深く頭を下げながら言葉にした。
「情報の開示に感謝と、失礼な対応に深くお詫び申し上げます」
「いいのですよ。
エルルのことをどれだけ大切に想ってくださっていたのかがはっきりと伝わり、感謝の念に堪えません。
それと私たちへの敬語は不要ですので、どうぞご自由にお話しください。
便宜上"女神"と名乗っていますが、正確に言えば私たちは高次元生命体のいち種族にすぎません。
我々が持つ本来の役割は、迷い込んだ魂の救済になります」
それは人から呼ばれるような崇拝される神ではなく、魂の救済はするが信仰の対象にはならない、という意味だろうか。
そんなことを考えていると、金髪碧眼の女神は神々が持つ力の一端や本来の役割を話してくれた。
「確かに私たちは何もない場所に創造する力を持つわ。
太陽や月に星、大地と海、そして空。
様々な環境を整え、生物が過ごせる世界を創り上げる。
でもね、それはすべて何もない空間に迷い込んでしまう魂がいるからなの。
そのままにすれば消滅してしまう儚い存在を、世界に適合した肉体を与えることでもう一度過ごしてもらうために私たちは力を貸しているの」
そんな無限にも思える空間の中で、彷徨う魂を管理するのは不可能なほど難しいと思えるが、実際にはある法則性を持つように一か所へ集まるものらしい。
「……とても不思議よね。
まるで帰巣本能からくる行動にも思えるの」
「それで世界を新たに創る神がいるってことなのか」
何か実験でもしているのかと邪推が頭をよぎったが、あながち外れというわけでもなかったことに驚いた。
世界を創り、管理世界で様子を見守る。
ここに大きな違いはないが、中には別の目的のために創造した神もいるようだ。
「人の行動原理の研究や、人々の力で平和な世界を構築できるのか。
解決困難と思える状況下でどういった選択をするのか。
トーヤ君のいる"地球"を創造した神様も、そんなことをしているのよ」
地球の創造神、という言い方に少し引っかかりを覚えた。
いや、だからこそ祈りや願いで動いたりはしないのか。
言うなれば、"人の辿る結末"から何かを見出そうとしているのかもしれないな。
「あのおじいちゃん、たった一柱で超巨大な球体の世界を完璧に創り上げたの。
私は創造する力は苦手だけど、ラティはもちろん、さすがのあなたも無理よね」
ラーラさんは金髪碧眼の女神に訊ねるが、"できないわね"と即答した。
「そもそも球体の世界は平面上の世界を創造するよりも遥かに高度で、何よりも莫大な力を必要とするの。
外からの侵入者への防衛も完璧だし、形だけじゃなく外宇宙の星まで創り上げたとんでもない力の総量を持った神様なのよ」
「……想像とは随分違うな。
もっとこう、"我関せず"なタイプかと思ってた。
人類だけでも70億人はいるし、管理も何もあったもんじゃないだろうからな」
その推察も間違いではなかったようだ。
人々に力を貸すわけでもなければ、地球の環境が破壊されようが人類が滅亡の道を辿ろうが、基本的に地球の神は関与しないらしい。
生物の住めない環境になった場合のみ浄化するように地球を戻し、侵略者がいれば星に影響を与える前に対処する。
すべてはあるがまま。
人類が導き出す終末も、ひとつの"結果"として考える方のようだ。
「確か、人が住める環境まで急速に時代を進める、とか言ってたわね。
それがどれだけ凄いことなのかをトーヤ君たちに言葉で説明するのは難しいけれど、とりあえず同じ神として圧倒的な差があるのは間違いない、とんでもない力を持ったおじいちゃんよ」
「……あの方をおじいちゃん呼ばわりするのは、あなたたちだけだと思うわ……」
エルルミウルラティールは苦笑いをしながら答えた。
どうやら格上どころではない存在といっても間違いじゃなさそうだな。
もしそんな存在がいれば会ってみたいもんだと思っていた地球の神だが、相当気難しそうな老人の姿が俺の頭に思い浮かんだ。