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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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浅はかな行動が招いた結果

「それは違います」


 はっきりと女神は言葉にした。

 表情から読み取られるのはいつものことだが、今回のは仕方ないと思えるほど顔に出ていたんだろうな。


 だとしても現実は変わらない。

 俺にはそうとしか思えなかった。


 それ以外の答えが出ない俺に、女神は答えた。


「トーヤさんが卵に込めた力のせいではありません。

 フラヴィさんが人の姿になったことや、トーヤさんが持つ知識と技術に大きな影響を与えていますが、それ以上の変化は起こりえないはずでした」


 女神の言葉に首を傾げてしまう。

 もしそうだとすれば、いったい何がフラヴィの体に起こってるんだ……。


「本来起こりえない現象である2度目の成長の際、フラヴィさんの中で大きな変化が起きました。

 肉体と精神を強引に急成長させたことによる弊害と結論付けましたが、ある遺伝子の損傷を確認しています」


 それは肉体を維持し続けるものや古くなった細胞を再生させるもの、それに加えこの世界で生存するために必要不可欠となる遺伝子のごく一部が失われたのだと女神は話した。


 難しい話だが、素人だろうとこれくらいは知っている。

 そしてそれらがどれだけ大切なものであるのかも想像に難くない。


「……つまり、テロメアが短くなったということか?」

「ここはトーヤさんの知る常識とは違う部分も多い世界ですが、おおむねその認識で間違いないと言わざるをえません」


 目の前が歪んだが、足に力を込めて倒れることを拒絶した。


 ここは俺の知る世界とは違う。

 答えを聞くまで望みを捨ててはいけない。

 それがたとえ、針の穴ほど小さいものだったとしても……。


 だが、無常とも言える現実を女神から叩きつけられた。


「フラヴィさんの急成長は今後も起こり続けますが、そのたびに寿命を大きく縮め、5回目の変化に体が耐えきれず限界を迎えると予測しています」


 現実を閉ざすように右手へ額を当てる。

 あまりのことに思考が追い付かずにいると、女神は話を続けた。


「4回目の変化が現われたら成長をしないように封印処置を施します。

 そうすることで成長による悪影響は落ち着きをみせますが、それも一時的な時間の猶予が得られるだけで根本的な解決にはなりません。

 処置を施したのちトーヤさんに連絡しますので、この"管理世界"へ戻っていただくことになるでしょう」

「……ここで、何をするんだ……」

決断していただきます(・・・・・・・・・・)


 はっきりと言葉にした女神からは明確な覚悟を感じ取れた。


「対処法はふたつ。

 卵の状態から生まれ直すか、そのまま留まるか、です。

 もちろん他の手段がないか調べ続けますが、これに限って言えば2択だと思ってください」


 ……つまり、期待はするな、という意味なんだな……。


 両手が痺れるほどの強い恐怖を感じた。

 どちらも最悪の手段にしか聞こえなかった。


 女神は"俺のせいではない"と言ったが、直接的な原因は違うだけで、結局は俺の浅はかな行動が招いた結果だ。


 俺が不用意に力を卵へ込めてしまったがために、フラヴィは本来持つはずもなかった俺の知識と技術を継承した。


 それもある程度ではあるが、問題はそんなことではない。

 与えた知識と技術に加え、戦うことや強くなることを俺が望んだからこそフラヴィは応えてくれた。


 とても戦えるような精神をしていなかった心の優しい子に、武器を持つことを強要したのと何も変わらない。


「これはまだ確定ではない曖昧な話ではあるのですが、卵からもう一度生まれ変わるとしても、記憶の継承はできると思います」

「……それじゃあ、体だけ小さくなるっていう意味なのか?」

「年齢に応じた記憶を徐々に戻していく、と言ったほうが正しいですね。

 同時に同じようなことが起こらないように調整をしますので、この方法であれば6歳で今現在の状態に戻れると思いますが、これには大きな問題もあります」

「……生まれ直してから6年間過ごさなければ、今のフラヴィが持つ記憶は戻らないって意味なんだな……」

「はい」


 完全に記憶が消えるわけではない。

 あくまでも一時的なものに過ぎない。


 だが、それを素直に喜べなかった。


 逆に言えば、今のフラヴィが一時的でもいなくなるんだ。

 それが最善の選択だったとしても、素直に喜べるはずもない。


「色々と問題事を抱えている時にこのようなお話をするのは躊躇いましたが、それでも考える時間は多いほうがいいと判断しました。

 一時的とはいえ記憶を失うことになりますし、これまで積み重ねてきた技術もすべて戻ってしまうでしょう。

 それでも、どうか前向きに考えていただければと思います」

「……邪神の件と、どちらが先なんだ?」

「フラヴィさんのことは、全てが終わるまで責任をもって護らせていただきます」

「……そうか……」


 小さく呟いた俺は、心を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

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