予想外の能力
それについて俺が考えてるだけじゃ答えは出ない、か。
今も驚きの中にいるオリヴィアへ訊ねようとすると、先に答えられた。
「……いえ、なんでもありません。
トーヤたちやオーギュストに逢えて、本当に良かったと思えたんです」
「オーギュストのお兄さん、とっても優しかったの」
嬉しそうにフラヴィは答えた。
さすがに"寂しそうだった"とは言わなかったか。
幼いなりにも気を使ってくれたんだな。
「それで、どうするつもりなんだ?
ここにオリヴィアがいれば解決するんだろ?」
「さっすがトーヤ君!
それでこそ私のお婿さんだわ!」
「何度も言うが、なるつもりはないぞ。
具体的にはどうするんだ?」
くねくねと体をよじる女性を視界から限界まで外し、俺は女神に訊ねた。
この"管理世界"なら様々な調整ができるはずだ。
そうでなければ、こんな話はしないはずだからな。
「オリヴィアさんを中心として、彼女たちの種族全てに"女神の加護"を与えます」
そう言葉にしたエルルミウルラティールには、確固たる決意が感じられた。
それほどの事態にまで直面している、という意味も含めてるんだな。
彼女の瞳からは、それを確信させるだけの怒気が込められていた。
彼女の性格を考えれば、迫害する者に嫌悪感を抱くのも分からなくはない。
命の尊さを正しく理解している彼女からすれば、一方的に奪い去る者は庇護対象ではないと判断しているのかもしれない。
これに関しては俺がとかやく言うことではないが、訊ねたいことはあった。
「加護を与えられるのなら、彼女たちの種族は救われると判断してもいいのか?」
「はい。
加護の詳細は、"害意を向けた存在からの攻撃を無効化する"こと。
そして、"害意を向け続けた対象に能力を一定期間低下させる"ことです」
ひとつ目の効果に絶対的な強さを感じさせたが、あくまでもこれは相手からの悪意ある攻撃を無効化するものであって、彼女たちの種族側から襲い掛かった場合は加護の適応外になるそうだ。
しかし、オリヴィアたちの同胞は争い事を極端に好まない性格をしているため、一方的に攻撃を受けてもその逆はありえない。
そもそも彼女たちの種族が任された本来の役割は、世界の異常を感知すると自動でシステムに報告が挙がるようになっているそうで、いわゆる世界の守護者とも言い換えられる役目を担っていたのだと女神は話した。
実際に世界を揺るがすような事象が起きなかったことや、強めの身体能力や魔力を持たせた種族だったこともあって、女神もこれまで気にしていなかったそうだ。
これについての言及はなかったが、彼女たちが襲われるようになったのもそれほど古い話じゃないのかもしれない。
優しい心根を持つ彼女たちが、自らの命を賭すことで強力な薬を作れる理由はなぜなのかを訊ねたが、それは女神も予想外の能力だったと答えた。
どうやら彼女たちの性格が大きく影響していると、話を続けた。
「生命を創造する際、こちらの想定とは違う結果の能力を持って生まれることが稀にあります。
攻撃的なものであればシステムが自動で調整を加えるように働くのですが、彼女たちが自ら獲得した力には適応されませんでした」
実際に危険なものであれば女神自身が手を加えていたが、能力の詳細を知った彼女には何もできずに世界へ送り出したのだと女神は答えた。
それが過ちだったと彼女は話を続けるが、そんなことはないと思えた。
現に救われた人物を知っているからな、俺は。
オーギュストの心は深く傷ついたが、それでも俺は彼とも約束をしている。
……オリヴィアの元気な姿を見れば、また涙を流しそうだけどな。
「オリヴィアに悪影響は出ないとは思うが、念のため確認してもいいだろうか」
「もちろん安全に調整を終えられます。
あくまでも彼女を中心として同種族へ"加護"を送るだけですので、悪影響は一切出ないことをお約束します」
「……私が調整できれば地上で彼女たちを見つけてお話すれば済む話なんだけど、とても苦手なのよね……」
細かく聞いてみると、とても緻密な力を使う必要があるらしい。
そんなことができるのなら、地上に影響を与えることなく顕現できるんじゃないだろうかと思ってしまうが、まったく別のベクトルの力になるそうだ。
これに関しては現代日本の、それも高校生が学んだ知識だけじゃとても理解できない内容だったが、"相性の良し悪しがはっきりと結果に出る"ことだけは、何となく分かったような気がした。
ものの2分程度で調整は終わり、地上にいる彼女の同胞たちには"女神の加護"を渡せたとエルルミウルラティールは話した。
……いったいどれだけ危険な状態だったんだ、エルルは。
そう思えてしまうほど、とても短い時間で調整は終了した。