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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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人が人である以上

「そういえば、あなたの世界は随分と長く"穏やかな日々"が続いているわね」


 女神エルルミウルラティールは、金髪碧眼の女神へ言葉にした。

 しかし、人が人である以上、争いのない世界があるとも思えないが……。


「そうね。

 私たちの世界はようやく安定してきたところかしら。

 それでも3200年以上も戦争がないことはとても嬉しいけれど」

「……そんなにも長く、人の争いが起きないものなのか……」


 人はそれほど平和的な思想を持たないものなんじゃないだろうか。

 たとえ多くの人が優しく温かな思いやりにあふれる心を持っていたとしても、世界中の人がそうだとは言い切れない。

 たったひとりでも危険な思想を持つ者が現われれば、まるで伝染するように悪意は人々に伝わり、大きな諍いに発展するのが人間なんだとも俺には思えた。


 だが彼女の世界は、3000年以上も大きな諍いが起こっていないという。

 そんなこと実際に起こりうるんだろうかと考えていると、ある仮説を思いつく。


 いや、むしろそれこそが正解のように思えてならなかった。


「……そうか。

 神々が世界に降り立ち、人々を見守っているのか」


 もしそうだとすれば、色々と説明がつく。

 ラーラさんとは違って、何かしらの役割を地上で実行しているんだろうか。


「トーヤ君の言うように、私たちは全ての街に神を一柱(ひとはしら)ずつ顕現させているの。

 理由はいくつもあるのだけれど、人と共に同じ時間を生きることで大きな争い事を抑え、誰もが笑顔で過ごせる優しい世界を"人々と創ること"を選んだのよ」


 そんなことが可能なのか、という話ではないんだろうな。

 そうありたいと心から思ってくれた神々がたくさんいる世界なのか。

 それはきっと、どんな世界よりも優しくて温かい"楽園"のような場所に思えた。


「争うこともいがみ合うこともなく、誰もが笑顔でいられる世界、か。

 世界のどこかで戦争を続けている俺のいた場所とは違う、とても優しい世界なんだな」

「そういってもらえると、私たちも嬉しいわ。

 地上に顕現した本当の理由も、人々の戦争だったから……」


 そう言葉にすると、女神はこちらを見ながらどこか遠くを見つめた。


 何千年、何万年と生きるのであれば、思うところも多いはず。

 様々な時代を生き、出会いと別れを繰り返すことは人の身には耐えがたい。

 それでも彼女は、争い事のない世界を心から創りたかったんだろうな。


 争うこともなく奪い合うこともない、そんな優しくて温かな"楽園"を。



「さて、トーヤさんにお願いしたいことも伝えましたので、ポータルの使用権限をお渡ししようと思います」

「ポータルの使用権限?

 それがあれば世界中の至る場所に降りられるってことか?」

「はい。

 申請があればシステムが自動で受諾しますので、気兼ねなくご利用ください。

 同時に世界の国や町の名前と特色、周辺の森や林などの地形とポータルの設置場所についての情報も開示します。

 こちらもお持ちいただければ、お役に立つと思いますので」

「……それは、そうだが……」


 正直なところ、素直に喜べなかった。

 その権限は人の身に余るものだ。


 特にポータルの使用権限ともなれば、特例中の特例に決まってる。

 これは神々が"管理世界"から自由に降り立たないための仕様のはず。

 つまるところ自由気ままに顕現すれば世界に影響が出るからこそ、ポータルなんてもので制限しているとしか思えない。


 だが、同時にその権限があれば、突発的な事態にも対処ができるという意味にも繋がるし、恐らくは女神エルルミウルラティールやラーラさんとも緊急時にコンタクトが取れるようになるだろう。


 そうしなければならない相手がいると簡単に割り切れたら悩まずに済んだんだが、どうにも俺は頭が固いみたいだな。

 この期に及んで俺は、"一般人であること"を望んでいるんだろうか。


 どうするべきかを悩んでいると、ラーラさんは笑顔で答えた。


「そんなに難しく考える必要はないわ。

 便利な機能だし、必要なければ自由にしていいのよ。

 ただ、逆に言えば本当に必要となった時にここへ戻ってくるには、いくつもの障害が出てしまうの」

「ポータルの情報と使用権限がなければ、たとえパスコードを適切な場所で発言しても転送されないって意味だな」

「えぇ、そうよ。

 エルルちゃんがいれば連れて来てもらえるけど、できればトーヤ君にも持っていてほしいの」

「イレギュラーが発生する場合を想定しているのか?」

「そうならないようにこちらで調整をするつもりですが、相手が相手だけに予測のつかない事態が起こりかねません。

 可能な限り、トーヤさんには俊敏に動けるようにしていただきたいのです」

「……確かにその通りだな。

 必要時以外は使用しないほうがいいのか?」

「いいえ。

 ご自由に使っていただいて構いません。

 また、使用時に周囲へ与える影響、および世界を揺るがすような仕様にはなっていませんので、ご安心ください」


 はっきりと断言できるほどの安全性を確立させた機能なんだな。


 ある意味ではバウムガルテンに戻り易くなった、とも言える。

 その日数を修練に使えると思えば非常に助かるのも事実だ。


 それなら、遠慮なく使わせてもらえばいいか。

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