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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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鉄槌を下すことで

 (たち)の悪い冗談であってほしいと本気で思えた。

 真面目な話をしている場で、そんなことを言うようなひとでもないのは分かっているつもりだが、それでもそう簡単には受け入れられるとは思えない現実を突きつけられた気がした。


「もちろん、トーヤさんたちが訪れたローゼンシュティールで生産されたわけではなく、あの国は世界を揺るがしかねない武具を回収し、決して使うことのないものとして宝物庫に封印していたのです」


 ……だとすれば、あの国は世界でも中立の立場を維持していたのかもしれない。

 もしかしたら、それこそがあの国の基本理念だったんだろうか。


 ローゼンシュティールを滅ぼし、盗んだ剣を現在でも保有した低俗な皇帝が豪奢(ごうしゃ)な椅子にふんぞり返りながら、強欲にも今度は世界すら手中に収めようと狙ってるんだな。


 怒りを鎮めながら、俺は女神の話に耳を傾けた。


 もはや文献すら完全に消失しているほどの遥か昔、とある国が現在でいうところのアーティファクトを大量に生産し、文字通りに世界を牛耳っていたそうだ。

 そのあまりに傲慢で思いやりの欠片もない国民の思想は女神を怒らせ、鉄槌を下すことで跡形もなくこの世界から滅したらしい。


 これほどまでに温厚な女神を激怒させた理由は想像に難くない。

 どこの世界もどの時代も、ロクでもないやつはいなくなることがないんだな。


 振り下ろされた彼女の一撃は大地を深く抉り、巨大な大穴を空けた。

 数百年以上の歳月をかけて水を溜め、現在は世界最大の湖と呼ばれてるそうだ。


 思えばその辺りかもしれない。

 あの"水中神殿"が造られた時代は。


 あまり考えたくもないが、もしかしたら女神を怒らせたことへの戒めとして建造されたのかもしれないが、そこまで深く追求する気にはならなかった。

 むしろ、こちらのほうが聞くべきだと思えた。


「造られた強力すぎる武具が残存していると解釈してもいいのか?」

「はい。

 さすがにすべての武具を消すとなれば、大地に悪影響を与えかねませんので」

「……なんとも凄まじい話だが、逆に言えばいくつかは残ってるってことか」

「はい。

 これについても検討中ですが、ふたつだけ凄まじい力を秘めた武具が危険思想を持つ者の手にありますので、早急に回収、または破壊しなければなりません」


 この件は俺が口を出す必要もないか。

 まぁ、おおよその見当はついているが。


「……超古代文明が残した武器、か。

 現在ではアーティファクトと呼ばれているもののほとんどが"レガシー"だったとは想定の範囲を超えていたが、それなら俺でも破壊できる(・・・・・)って意味になるな」

「現在のトーヤさんでも破壊は可能です。

 もしそういった敵対者が現われた場合は、回収よりも破壊することを優先されたほうがいいかもしれませんね」

「なるほど」


 確かにその通りだ。

 同時に女神から言われたことは大きな意味を持つ。

 本当に一振りで数百人を蒸発させうる力を秘めているみたいだな。


 どうやって製造したのかなんて興味もないが、温厚な女神を怒らせるわけだ。

 それも国ごとともなれば、取り返しのつかない状況にまで悪化してたはず。

 そんな思考の持ち主どもとは同じ人間として区別されたくもないが、それはあの暗殺者や狂人にも言えることだな。


 ともかく、あんな連中とは二度と遭わないことを願うばかりだ。



 話のついでに、魔物の存在や形骸化されたステータスについても質問した。

 この世界を管理する女神と出逢える機会なんて、普通に旅をしているだけじゃ接点すら持てないだろうからな。


 どうやら、当たらずとも遠からずだったようだ。

 あくまでも目に見えて分かる成長度としての役割が強く、本音を言えばそれ以上でも以下でもないと女神は話した。


 たとえ腕力の数値が20あろうが、それは鍛えた結果が数字として見えるだけで、実際に平均値である3の冒険者が持つ力の7倍近いパワーを出せるかといえば、そういったものではないそうだ。


 そうでもなければ一気にバランスが崩れるからな。

 その結果が見せるのは強者が支配する絶対服従の世界だ。

 当然、これは最悪の場合だから、こうはならないかもしれないが。


 しかし、魔物に関しては俺の予想とは少し違っていた。

 考えていた可能性のひとつではあるが、こうして"答え"を聞けることは俺にとっても興味深く思えた。


 世界を歩く魔物は、人の意識を向けるためのものとして創られたようだ。

 悪意をそちらへ集中させることで、人同士が争わせない方向へ持っていきたかったらしい。


「必要悪、と表現するのが適切でしょうか。

 人の敵意が向けられる"いちばんの存在"として創り上げたのが魔物です。

 心身を鍛えるための対象としての役目もあるのですが、人が多く集まればそれだけ違う意見が飛び交いますから、利権や私欲で大国が動くこともありました。

 ですが狂暴な魔物はいませんので、そういった意味で言えば"人が生きるための糧"となっているようですね」

「人間は底なしの欲望を持っているからな。

 いずれ国同士が争うのも不思議なことではないと思う。

 ……それに、戦争のない世界なんて、俺にはあると思えないな」


 本心からそう思う。

 人間ってのは愚かな生き物だからな。

 同族を殺し、時には自分のために大切な人まで犠牲にする。


 俺にはちっとも理解できないが、70億人もいれば価値観の違う存在がいても当たり前なんだろうな。


 ……それは、とても悲しい答えではあるんだが。

 "レガシー"

 旧時代の遺産や歴史的な遺物のことで、主に現在よりも遥か昔の時代を生きた古代人が作ったと言われる。

 そのほとんどが現代の技術では作り出すのは不可能と認識される貴重な道具で、発見すれば3回は人生を遊んで暮らせるだけの莫大な金額で売ることができる。


 現状では神が創りあげたアイテムである"アーティファクト"に次ぐ価値があると、一般的には言われていた。

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