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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十八章 心から信頼する仲間たちと共に
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最悪の推察

 それに、気になることもある。

 俺たちの敵は他にもいるからな。


 今は警戒するくらいしかできないが、いずれ近いうちに動きを見せるだろう。

 後手に回るのは(しゃく)だが、冒険者ギルドが作戦を立ているはずだ。

 こちらが勝手に行動すれば、多大な迷惑をかけかねない。


 それに、少人数で片を付けられると思うほど俺もガキじゃない。

 いくら俺たちが強かろうと、大軍を相手にすれば必ず綻びが生まれる。

 そこを狙い撃ちされるなんて、目も当てられないからな。


 ましてや子供たちに戦争を体験させたいと思う親がいるわけがない。

 たとえ戦える強さを持っていたとしても、子供たちを絶対に巻き込まない。


 暗殺者を含む人間の悪党どもがひとたび動き出せば、最悪の場合はそれに乗じて邪神も駒を進める可能性すらある。

 そうなれば旗色が悪いどころの話ではなくなる。

 一気に詰む可能性だって十分に考えられるだろう。


 むしろ、俺ならそこを狙う。

 人同士の戦争は好機としか思えない。

 世界を二分するかのような戦いなら、なおのことだ。


 ……本当に時間がないな。

 何もしないわけじゃないが、クラウディアたちの修練期間内でもできることを可能な限りするべきだ。


「……やはり、迷宮について訊ねてもいいだろうか?」

「もちろんです。

 トーヤさんが望むのであれば、どんなことでも協力させていただきます」


 女神エルルミウルラティールは笑顔で答えてくれた。


 本音を言えば、こういったことはしたくない。

 それはまるでズルをしているように思えるからだ。

 一般人であれば絶対に知りえない情報を聞く行為、特に迷宮内の情報については、ある種の咎に思えてならなかった。


 ……それでも、と思う気持ちも強い。

 状況が状況だから仕方ない、なんて言い訳を頭の中で考える俺も確かにいる。

 どんな理由を並べたところで、今していることは本当に良くないことだと思う。


 そうだとしても、俺は知っておくべきだと、強く思った。


 そんな俺に女神は笑顔を崩さず、迷宮の情報を包み隠すことなく話してくれた。

 170階層から先のこと、魔物の種類と数やその特性、ボスや報酬など。

 俺たちが修練に使えそうな階層がどこかを、分りやすく説明してもらえた。


 200階層までの話を聞いて、80階層は本当に異質だったんだと理解できた。


「……なるほど。

 81階層から89階層は、元々誰も突破できないような仕様にしていたのか」

「はい」


 つまり大量に出現するアンデッドは、文字通り先へ進ませないように用意された壁で、そこから奥へ進めば色々と問題が起こるってことだ。


 その理由のひとつは、"強すぎる武器"が存在するからだな。


 現在"ラティエール"の住人が持つ強さは、1000年前と比べて技術が極端に衰退しているのは俺の予想通りではあるが、かつての英雄の中には単身で乗り込み、迷宮をクリアした者もいたと女神は話した。


 1000年前といえば、恐らくギーゼブレヒト断崖を防壁としたローゼンシュティールが栄えていた時代に近いはず。

 あの国の隠された宝物庫にあった武具の数々は、どれもがレジェンダリー以上の性能を持っていた。

 英雄が持ち帰ったものが、あの場所には仕舞われていたのかもしれない。


 それだけでなく、100階層から先の魔物が極端に強くなる点にも問題がある。

 武装し、連携をとる魔物が多く出現することもあって、冒険者を含む今現在の人類が持つ強さと比べると実力不足は否めないどころか、無理をして進めば命を落とす可能性が高いと女神が判断したのも理由のひとつらしい。


「本音を言いますと、あの程度の魔物を退けられない実力で先に進めば、そう遠くないうちに最悪の結果に繋がる可能性が非常に高いのです」


 確かにその通りだと思えた。

 ディートリヒたちのように魔力の流れを読むことができれば突破は容易いが、それを実行できる強者は多くないはずだ。


 そもそも、世界で最も強いと同業者から噂されるランクS冒険者のレオンハルトでもクリアできないからこそ、バウムガルテン迷宮は現実的に攻略が不可能だと言われている。


 どうやら推察だけじゃなく、本当にこれが世界標準のようだな。


 となれば、人間の敵として厄介なのは数で押してくる大軍か、毒やアーティファクトを使用しながら襲い掛かる"暗殺者"の類だけと言えるだろう。

 ルーナでさえ斃されかけた元凶の"跳躍の腕輪"も、そのひとつだったのか。


 なぜあんな危険すぎるものが世界に存在するのかを訊ねると、とんでもない答えが女神から返ってきた。


「アーティファクトとは本来、神々が創り上げた不壊の武具(・・・・・)

 それはあくまでも"人の子には壊せない、強固な武具"のことです」


 その言葉に驚かないほうがどうかしていると思えた。

 それが意味するものは、まさに恐怖心しか抱かない最悪の推察だった。


「……じゃあ、なにか……。

 アーティファクトと人から呼ばれる武具の類はほぼすべて、人が作り出したもの(・・・・・・・・・)だってのか……」

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